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366.船の甲板にて

 その逃げていった男を、当然ルギーレもアサドールも追いかけないはずがない。

 今までずっと誰一人逃がさないようにしてここまで来たというのに、ここで初めて敵を逃がしてしまったということになってしまえば、それだけで今までの苦労が全て水の泡になってしまうからだ。

 深追いは相手の策にハマってしまう危険も持ち合わせているし、そもそもこの船の中は麻薬組織のテリトリーでもあるからだ。

 それでも、先ほどの男がルギーレをだんだんと追い詰め始めていたのに急に逃げ出してしまった以上、気にならないわけがないので二人はその男の背中を見失わないように走り続ける。


「アサドールさん、あの魔術で足止めできませんか!?」

『すまない、止まっていないと集中できないんだ!』

「え、ええー……」


 肝心な時にそう来るかとルギーレは落胆しつつも、こうなったら自分で止めてやると決意して通路の壁にかけてある浮き輪を手に取って、それを思いっきり先行する男の背中に投げつける。

 だが走りながらではなかなかコントロールが出来ないし、足に力を入れている分で投げつける力まで上手く入らないのが現実だった。

 結局浮き輪作戦は上手くいかず、ひたすら走って男の背中を追いかけていく二人。

 そしてたどり着いたのは、一旦船の甲板に出てから中に入るルートになっている艦長室だった。


「はぁ、はっ、はぁはぁ……よーし、もう逃がさねえぜ!!」

『ちょっと待て、ルギーレ』

「え?」


 艦長室の中に入っていった男を追いかけて、自分もアサドールも当然その中に入ると思っていたルギーレは、まさかのアサドールからのストップがかかったことで困惑した表情を見せる。

 そんなルギーレに対して、アサドールは艦長室の中から感じられる奇妙な気配に身構える。


『何か来る。離れた方が良さそうだ』

「え、でもあいつはもうこの部屋の中……」

『いいから離れろ!!』


 アサドールの剣幕に押されて、彼に腕を引っ張られる形で館長室から離れることになったルギーレの目の前に、異様なオーラを纏った男が一人現れた。

 先ほど逃げていった男が艦長室の中で体勢を立て直して襲いかかって来たのかと思いきや、その男とは別人らしい。

 なぜわかったのかといえば、上下ともに黒ずくめだった先ほどの男とは違って、今しがた出てきた男は緑色を基調としているヴィーンラディ王国騎士団の制服を着込んでいたからだ。

 歳はまだ若く、恐らく自分と余り変わらないぐらいかもしれない茶髪に水色の瞳を持つその男だが、瞳に光が見られない。


(目が死んでいるってこういうことを言うんだな……って、そうじゃねえ。あの黒ずくめの格好してる奴を探さなきゃな!)


 黒ずくめの服装をしている人間といえば、ここのところすっかりご無沙汰な気がするあのウィタカーやヴァレル、トークスといったバーサークグラップルの連中だが、もしかしたらあの逃げて行った男もその仲間かもしれない。

 その男の仲間がこの茶髪の男であり、彼をかくまっているのだとしたら例えそれがこの国の騎士団の人間だとしても、自分たちに刃を向けてくる相手として倒して進ませてもらうだけである。

 しかし、そう意気込むルギーレの横にいるアサドールの表情はなかなかに険しい。


『……気をつけろ。この男は普通じゃない』

「伝説のドラゴンの一匹であるあなたがそんなことを言うってのは、よっぽどタチの悪い奴ってことですよね?」

『ああ。だからそう言っているんだ。私と同じく弓使いのようだが、もしかしたらこれは苦戦するかもしれないな……』


 伝説のドラゴンがそこまで言うとなれば、これはもう全力で倒しにかかるしかない。

 ルギーレとアサドールが緊迫した空気の中でそれぞれの武器を構えたのを見て、茶髪の騎士団員の男は自分の弓を構えたのだが、その構えた先が全く見当違いの方であった。


「……おい、あいつどこ狙ってんです?」

『さぁ……だが油断するなよ』


 どす黒いオーラを纏う男が狙いを定めたのはルギーレとアサドールの方ではなく、ほぼ垂直といってもいいぐらいに斜め上の空だった。

 そこにキリキリと引き絞られた弓から放たれる矢が、空気を切り裂いて飛んでいきやがてスピードを落とし、弧を描く軌道で二人の方に向かって落ちてくる。

 夜ではあるものの、その矢の軌道をしっかりと捉えていた二人は大きく距離を取って矢を避けに入るが、それが男の狙いだったのだ。

 なぜならその矢が二人を突き刺すことはなかったものの、突き刺さった甲板の中心から派手な音を立てて大爆発したからである。


「うおおおおっ!?」

『くっ!?』


 魔力を最大限に込め、爆発するように改良された矢。

 それに気を取られていた二人のもとに、今度は別の矢が連続して襲い掛かってきたのはそのすぐ後だった。

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