365.第二層目
その階段を下りて行った先は、ジェクトとクレガーが見つけた地下牢の一段上の場所だった。
つまりこの船の内部は三層構造になっているのだが、果たしてこの中には何があるのだろうか?
先ほどから出てくる敵たちも少しはその勢いが衰えてきている今、この第二相目を見つけたからには調べないわけにはいかないのだ。
「倒しながらじゃ結構きついですけど、今はそんなことも言ってられないっすからねえ!」
『そうだな。しかし、油断は禁物だ』
内部構造を把握しているのは敵たちの方なので、ここは逃げていく敵たちをなるべく深追いしない作戦に出る。
だが、先ほどせん滅すると誓ったばかりなので本当に逃がしてしまっては元も子もない。
なので考えた作戦としては、まず出入り口の階段付近でアサドールが待ち伏せをする。
そして前衛のルギーレが先に進み、敵と交戦してなるべく倒す。
その中で、彼の攻撃を回避して何とか逃げようとする敵をアサドールの魔術や弓が仕留めるという算段だった。
(なかなか敵が多いのはこの階も同じか。でも、俺とアサドールさんから逃げようったってそうはいかねえんだよ!)
心の中で自信たっぷりにそう宣言しながら、ルギーレは自分がきちんと敵を倒せていることに感動していた。
勇者パーティーにいたころは、マリユスやベティーナなどの実力者に馬鹿にされまくっていたのだが、それでもこうしてパーティーを追放されて旅をするようになってから成長してきたようだ。
ファルスの警備隊長であるシャラードなどにも特訓をしてもらったおかげで、何とかこうやって戦えているのは恐らくレイグラードの加護で身体能力が上がっているだけではないのだろう。
自分の成長を実感しながら少しずつ前に進んでいくルギーレだが、そんな彼の目の前に一人の男が飛び出てきた。
「ぬんっ!」
「うおっ!?」
その男は右手に握っている青い柄のロングソードを突き出してきたので、それをギリギリで回避したルギーレ。
だが、その一撃だけでこの男の実力が感じられる。
(こいつ……こいつだけはなんか違うぞ!?)
今の一撃の素早さ、それから的確に目標に当ててこようとする的確さから見ても、殺しに迷いが見られない。
今まで戦ってきた敵たちはそれこそピンキリであり、最初から逃げ出そうとする者がいたり、勇猛果敢に立ち向かって来ようとするなど戦闘に対しての温度差が見られていた。
だが共通しているのは、いずれもルギーレの現在の腕でも難なく倒せるぐらいに戦闘能力が高くなかったということである。
それに比べて、この目の前に飛び出してきた水色の髪の毛を持っている長身の男は……。
(くそっ、速い!)
一撃ずつがまず重い。
受け止めるだけでもそれがよくわかる。腕にしびれが走るがレイグラードの加護もあって何とか持ちこたえるルギーレ。
そして先ほども感じた正確さ。スピード。どれをとっても今まで戦ってきた船内の敵たちとは比べ物にならない。
上下ともに黒い服装をしていることもあって、どことなく不気味な雰囲気を漂わせているこの男は完全にこちらを仕留めに来ているのがわかるのだ。
そして、ルギーレはこの男の強さをまだ完全に見ていなかったことが次の瞬間にわかる。
「ふおっ!」
「ぐっ!」
右手だけで振るわれるロングソード。
ルギーレはそれを弾いて反撃に転じようとするが、男は左手を腰に回して逆手で引き抜いたもう一つの武器を彼に突き出す。
「うわっ!?」
「……ちっ」
ギリギリで何とか回避できたのはまさに幸運だったのだが、この男の二刀流戦法に危うくやられてしまうところだった。
せっかくショートソードまで使ったのに、それをかわされてしまい舌打ちする男は自分の二刀流で今度こそ仕留めてやる……とばかりに構えをとる。
そっちがそう来るなら俺だって容赦はしない、とルギーレもレイグラードを構えたその瞬間、対峙している男の表情が変わった。
「……!」
「なっ!? おい、待ちやがれ!!」
突然、男が踵を返して逃げていく。
いったい何がどうしてそんな行動をとったのか定かではないにせよ、ここであの男を逃がしてしまってはまずいとルギーレは追いかけ始めたのだが、そんな彼の足よりも速い物体が彼の顔の横をかすめていった。
「うっ!?」
『おい、大丈夫か!?』
「あ……アサドールさん!」
今、掠めていったのはルギーレが先行しているのを追いかけてきたアサドールが放った矢だった。
あの男は一体何だったのだろうか?
二人がその答えを知るのはもう少し後の話である。




