364.やっぱこうなるの?
見つかってしまったルギーレとアサドールのコンビ。
それはなんとルギーレではなく、アサドールの魔術を使用した行動が原因だったのである。
船の内部をコソコソと見つからないように行動していた二人は、その内部でなかなかめぼしいものを見つけられずに時間ばかりが経過していくことに焦りを感じていた。
「何か見つかりました?」
『全然だ。そなたは?』
「こっちも何も……やっぱりこの船って何もないんですかねえ?」
表向きはちゃんとした商船になっているのか知らないが、クレガーのような警備隊などにガサ入れをされても特に困らないようにしているのだろうか?
いずれにしても、せっかく外の連中に見つからないようにして潜入に成功したというのに、このまま何も収穫がないとなればまた別の船に潜入するべきであろう。
その思いからか焦りの色が強くなって来ている二人の元に、別ルートで潜入しているクレガーから連絡が入った。
「はい?」
『クレガーだが、今大丈夫か?』
「大丈夫ですよ。どうしました?」
『俺とジェクトで船底の方を調べていたら、すごいものを発見してしまったんだが……』
「え?」
ルギーレはクレガーから船底に見張り付きの牢屋が設置されていること、その中に麻薬漬けにされている民間人の男女が大勢いること、これからその牢屋を制圧に向かうことを連絡された。
「わかりました。こっちはまだ特にめぼしいものは何もありません。おそらくここは普通の商船として使われているんじゃないかと」
『その裏では麻薬漬けにした人間たちを運ぶための船でもあったわけだな。とりあえずそっちはそっちでまだ捜索を続けてくれ。こちらはこれから牢屋を制圧しに向かう』
「気をつけてくださいね」
『お互いにな』
その話をアサドールにも話したルギーレだったが、どちらにしろこの船の中でこれ以上何かが見つかる可能性は低そうだ。
だったら自分たちもジェクトとクレガーに加勢しに地下に向かうかを話し合おうとしていた矢先、間の悪いことにその部屋に入ってきたこの船の乗組員たちがいた。
「……ん!? なんだお前ら!?」
「やべっ!」
『任せろ!』
敵の数は二人。
その二人が何か行動を起こす前に、アサドールがこの船が木製の船だということを利用してその木材のエネルギーを使い、床板の下から太い木の枝を鞭のごとく操るようにして飛び出させ素早く二人を拘束した。
そこまではよかったのだが……。
「……あっ」
拘束した状態が悪かった。
二人のうちの一人が枝に足を取られてバランスを崩し、盛大に倒れこむ。その倒れこんだ先にあったものは、無造作に積み重ねられたいくつもの荷物。
そんなものに体重がある人間がぶつかってしまえば、あとは二人が止める前に荷物も一緒にバランスを崩して、派手な音を立てて崩れ落ちるだけだった。
ドガシャバリーン、ガランガラン、ガッシャーン!! と安眠妨害待ったなしレベルの崩壊音が響き渡ったのをきっかけに、バタバタと船内中が騒がしくなる。
「何だ、どうした!?」
「侵入者かしら!」
「おい、全員起きろ! 外にいる奴らも呼んで徹底的にこの船の中を調べろ!!」
ルギーレとアサドールは顔を見合わせて、二人してため息を吐き出し冷や汗を流す。
「やっぱり……」
『こうなってしまうのか……』
もはやどこか他人事のようにも感じられるが、こうなってしまった以上戦わないで脱出するということは不可能である。
じきに他の船にも連絡が行って逃げ出すのは必至のようなので、だったらここはいっそのこと派手に暴れまわって全員を倒し、今この港に停泊している全部の船を調べてしまった方がいいだろう。
その考えで襲い掛かってくる船内の敵を一人残らず殲滅し始める二人だったが、話はそこまで単純ではなかった。
「一人一人は俺でも倒せるぐらいに大したことないけど、やっぱり広い船だからかなりの人数がいるな……」
『いや、なんだか妙じゃないか?』
「え?」
敵の攻勢がひと段落したところでつぶやいたルギーレに、アサドールが違和感を訴える。
その内容はこうだった。
『確かに数は多い。でも、戦いなれていないような素人ばかりを集めている。吾輩にもそれはわかるんだが、地下に麻薬漬けの人間たちを押し込むための牢屋を造るぐらいの連中なら、それなりに腕っぷしも強い者を用意しておくような気がするのだが……』
「うーん、確かに」
『それにこれだけの船団を扱うのであれば、なおさら腕っぷしが強い者を集めておかなければ、他の海賊や同業者たちになめられてもおかしくなさそうな気もするがな』
何だかおかしい。
もしかしたらこの船の中には、まだ自分たちが気が付いていない何かがあるのではないか?
そう考える二人がまたやってきた敵たちを倒していくと、最終的にさらに船の内部へと続く階段が現れた。




