360.開発者
結局ハワードとヴェンラトースたちで北の方を調べることになり、ルギーレとジェクトはルディアをここに残したままドラゴンたちとともに南へ向かう。
そもそもジェクトが、このヴィーンラディに来る前にあの不審な船団を目撃していたということもあって、この調査のヘルプに向かわせるには最適の人員だとレラヴィンが判断したのも理由の一つだった。
だが、その反面不安になることは余りないらしい。
「反予言者派の人間たちを監視するなら私に任せておけ」
「シュエリヴォル団長?」
やけに自信たっぷりにジェラードがそう言いだしたので、それ相応の根拠があって言い出すのかとルギーレが問う。
「ああ。ヴェンラトースのように反予言者派の人間は我が騎士団の中にも、それから警備隊の中にもたくさんいる。しかし、その全てがそうではない」
事実、このジェラードは反予言者派の人間ではないのだ。
「確かに予知夢から得たという予言が外れることも少なくはなかった。だがあくまで夢の話。夢が全て正しいわけではないだろう」
「そりゃあそうですよ。そんな夢の話だけでいろいろと行動が決められていたら、それはたまったもんじゃないですよ。ねぇジェクトさん!」
「それは確かに」
ジェラードに任せておけば問題ないだろう、とルギーレが判断した結果、北に向かったヴェンラトースの代わりに今度はジェクトと一緒に行動していた彼が同行することになったのだ。
「こうしてちゃんと顔を合わせるってなると、やっぱり初めまして……か」
「ああ。俺は研究所の時はあんたに会わなかったまま、別の場所で助け出されたからな。改めて自己紹介をさせてもらうと、俺はジルトラック警備隊長の副官で副警備隊長を務めているクレガー・ヴァスロールだ」
金髪の若い副警備隊長とルギーレがこうして初めて顔を合わせ、ジェクトと三人で南へと向かう。
やはり気になるのは妙な新興宗教のこともそうなのだが、船団が何をしようとしているのかも突き止めなければならない。
その辺りはこの国の関係者であるクレガーの耳にもきちんと入っているのだという。
「先に向かわせているギルドのデレクが調べたところだと、船団に関係しているのはあの予言者様が戦ったっていう機械兵器の開発者らしいんだ」
「えっ、そうなのか?」
「そうなんですか? でも、どうしてそのギルド長のデレクさんって人がそのことを知ったんですか?」
まさかそんな簡単に調べられるわけがないだろう? と考えるルギーレとジェクトだが、デレクというその男は伊達にギルドの長をやっているわけではないらしい。
「デレクは過去に王国騎士団に所属していたが、任務中に盗賊を逃がしてしまいその責任を取って退団した。それで今はそのギルド長をする傍ら、王都の外れで薬草を栽培しているんだが……その薬草畑に最近、奇妙な集団がやってきたらしい」
「……まさか、それが例の宗教団体だと?」
「連中の格好を聞く限り、俺とあんたで壊滅させたあの地下の集団の格好と一致しているからそうだろうな。その連中が薬草を売ってくれと頼みに来たそうだ」
しかし、その連中が怪しかったのでその場はいったん断り、ギルドを通して秘密裏に冒険者たちにその連中のことを探らせた結果……。
「その宗教に行き当たったということか」
「そうだ。そしてその連中がまた薬草を売ってもらいに来たので、何に使うのか尋ねてみたら薬草を使って薬を作る、と当たり前のことを答えたらしい」
デレクはここであえて、その連中に少量ではあるが薬草を売った。
しかし、その薬草はオトリとして使うために売っただけであり、もちろん事前にギルドの冒険者たちを通じて宗教団体の連中を尾行させた。
結果、宗教団体は冒険者たちのネットワークで尾行されて見張られていることに気づかないまま最南端の街へとたどり着き、そこで……。
「ジェクトさんが見た、妙な船団と取引をしていたってことですね?」
「そうだ。そこに今回の船団の調査の依頼が入ったので、これ幸いとばかりにデレクは二つ返事で引き受けてくれたよ」
だが、デレクが掴んだ情報はその船団と国内の悲しいつながりだった。
なんとその宗教団体と、自分たちが誇る魔術師たちや騎士団員たちの一部がつながっていることが発覚してしまったのである。
しかも麻薬を大量に精製し、品種改良をして生物兵器を使って世界中にまき散らす計画らしいのだ。
「アサドールという男が解析したところによれば、例の研究所で蝶がまき散らしていた麻薬みたいな粉には、強力な幻覚作用や人間がもともと持っている本能を呼び覚ます成分が含まれているらしい」
「本能?」
「動物は弱肉強食。俺たち人間も例外じゃない。つまり俺があんたたちに言いたいのは、俺たち人間が持っている弱肉強食の部分をその麻薬散布によって呼び覚まして、世界中で戦争をさせるっていう意味だ」




