358.報告
「陛下、よろしいでしょうか?」
「ん? 誰だ?」
「騎士団長のジェラードです。北に向かわせた新人のヴィンロレッドから調査結果の報告がありましたので、その報告に参りました」
「いいだろう、入れ」
話の内容からして、これはルギーレたちにも聞いてもらわねばならないことだと判断したエルシュリーはルギーレたちをここに留まらせて、一緒にその報告を聞くことにする。
そんな一行の目の前に現れた、ピンク色の髪の毛を持っている大柄な中年の男は物々しく武装している状態だった。
しかし、これは新人のヴィンロレッドに何かがあった場合や突然の敵襲などに備えていつでも出撃できるようにとエルシュリーが命令したことによるものだった。
「報告いたします。北の方に派遣しておりましたシェオル・ヴィンロレッド騎士団員からの報告によりますと、謎の飛行物体に関する情報を手に入れましたのでそれについての説明がありました」
「ほう、それはどんな?」
まさかあの戦闘機の話じゃないだろうな……と考えるルギーレたちだが、その内容を聞いてみるとどうも違うらしい。
「はっ、その妙な飛行物体ですが……どうも巨人が飛んでいたとのことで」
「巨人?」
「きょ、巨人……?」
エルシュリーと同じタイミングでルギーレがリアクションをする。
両者ともにその表情はあっけにとられたようなものだったが、それはこの二人以外のメンバーも同じだった。
しかしその中で、ルディアには思い当たる節があった。
「あ……あの……話の途中ですけどちょっと聞いてもいいですか?」
「いいよ。何だ?」
「巨人ってもしかして、私があの研究所で戦ったあれみたいなのじゃないですよね?」
ついそんなことを口走ってしまったルディアだが、その予想はあながち間違いではなかったらしい。
なぜかといえば、ジェラードの表情が深刻なものになったからである。
「……それが、どうもその研究所で見つかったものに似ているそうだ」
「え!?」
「まあ、とりあえず報告を続けさせてもらおう。……それでその飛行物体に関してですが、大きさはドラゴン並みであり、足と思われる場所から炎が噴き出しているのが見えたそうです」
その報告にレラヴィンが口を挟む。
「すると……飛んでいる光景を目撃した方がいらっしゃるのですか?」
「はい。まさについ最近その飛んでいる光景を目撃した村の住人がいまして、その住人の証言によりますと、アーエリヴァ方面に向かって飛んでいくのが見えたそうです」
ジェラードが話すところによると、その妙な飛行物体は人目に付くのを避けるためなのか夜に飛んでいたらしく、まるで人間がベッドの中で背伸びをするような格好でうつ伏せ状態になりながら飛んで行ってしまったのだという。
『大きさがドラゴン並み……そうなると、俺様たちも目撃していてもおかしくないんだろうけど』
『だから夜に飛んでいたんじゃないのか? 吾輩たちだって年がら年中空を飛んでいるわけじゃないんだし』
『それもそうか。……あーすまん、続き頼むよ』
ドラゴンたちが会話を終わらせ、ジェラードからの報告の続きを促す。
「はい。それでその飛んで行った方角にさらに調査を進めたところ、アーエリヴァ側に入っていきましたので調査はここで打ち切りとなりました」
「打ち切り?」
「はい。アーエリヴァ側から入国の許可が下りなかったのです」
「なるほどな……」
いくら他国の騎士団だといっても許可なしにいきなり入国することはできないし、今の状況からしてなかなか他国の人間が入ってくるのには抵抗感があるだろう。
「それを言ってしまったら俺たちはどうなるんだって話なんですけどね」
「え?」
つい疑問が口から出てしまうルギーレだが、彼は名目上ではエスヴェテレスの皇帝ディレーディの部下として色々な国に入れるように便宜を図ってもらっている立場なので、騎士団員とはまた立場が違うのだ。
それを聞いていたレラヴィンが、ならば……とここでこんな提案をする。
「それでしたら陛下、ルギーレさんに北の調査に向かっていただくのはいかがでしょうか?」
「何だと?」
「確かに私たちの騎士団員が他国に頻繁に出入りをするのは余り好ましいことではないでしょう。しかし、他国の所属とはいえ正規の騎士団員ではないルギーレさんとルディアさんであれば、向こうの態度も少しは和らぐかもしれません」
「ううむ……それしかないかもしれないな」
武術大会の話もあるにせよ、今は国内におけるキナ臭い話を片付ける方が先だろう。
それに、ヴィーンラディの問題としてはジェラードの報告はまだ終わっていなかったのだ。




