357.蝶の出どころ
『おい、大丈夫か!!』
「ルディア、しっかりしろ!」
いまだにザーザーとスプリンクラーの雨が降り続く部屋の中で、機械兵器を打ち倒したルディアにようやく男二人が追いついた。
彼女の身柄を保護した上で、ここで一体何があったのかを説明してもらいながら歩く。
『あれがこの国で噂されていた、新開発の機械兵器?』
「どうもそうみたいです……でも、あれの相手をしていて女には逃げられてしまいました」
「とりあえずお前が無事で何よりだ。それからルギーレたちのことも気にかかるから、今はひとまずルギーレたちと合流しよう」
ルディアがエルヴェダーに身体を乾かしてもらっているその横で、ジェクトは魔晶石を取り出してルギーレたちのグループに連絡を入れ始める。
だが、その魔晶石による魔術通信に反応をしてくれないのだ。
「……変だな、出ないぞ?」
「きっとまだ戦っているんじゃないですか?」
「かもしれないな。だったら俺たちでルギーレたちを探しながらこの研究所の中をもっと探し回ってみよう」
そうすれば、もしかしたら何か新しい発見があるかもしれない。
そう信じていたルディアたちだったが、ここでバタバタと騒がしい足音が通路の先から聞こえてきた。
「ん……?」
『何だ、敵か?』
思わず身構える三人だが、通路の先から現れたのは完全武装しているこのヴィーンラディ王国の騎士団員たちだった。
どうやらハワードが国王のエルシュリーに頼んで呼んでもらった増援の騎士団員達らしいが、それは同時にこの研究所内部での探索が終わるということを告げていた。
◇
「……そして調査の結果、魔術師たちが麻薬組織とつながりがあったことが判明した」
「やはり……」
王都ケーフベルクのイリトース城に戻った一行に、エルシュリーから調査結果が告げられる。
魔術研究所は騎士団による大規模な調査が行われるとのことなのだが、それと同時に騎士団の内部にも徹底的な捜査の手が入るらしい。
「魔術師たちの一部、それと岸団員の謀反という結果につながった今回の事件だが、それもこれも全てルギーレやルディアなどを始めとする外部の人間たちが協力してくれたおかげだ」
「はい。しかし……これでまだ話が終わったわけではありません」
不穏なことを言い出すのは、国王のエルシュリーを支えているこのヴィーンラディの宰相であるレラヴィンだった。
「その逃走したという二色の髪の女の行方をまだ追わなければなりません。それから南の海の上に現れたという不審な船団につきましても現在調査中です。麻薬組織の全容もまだつかめていませんし、やるべきことはまだまだたくさんあるんですよ」
「そうですね……これで終わりではありませんね」
ルディアもルギーレもわかっている。
この事件の裏にはまだ誰かがいる。絶対に何かがある。
「気になるのは、ルディアのことをその女が知っていたということだな」
「ええ……誰かから私のことを聞いたみたいですが、皆さんはその女に心当たりはありませんか?
ヴェンラトースの呟きに続けてそんな疑問を投げかけるルディアだが、あいにくその不審な女の正体についてここにいる全員が知っている様子は見られない。
国王の執務室の中に重苦しい空気が流れるが、そこで口を開いたのがレラヴィンだった。
「そういえば、アサドール様があの蝶について調べてくださったんですよね? 何かわかりましたか?」
『ああ、あの蝶から検出された粉についてか。それなんだがちょっと厄介なことになりそうだ』
「厄介なこと……?」
アサドールが大きな蝶について調べたのだが、その粉から再び話が進んでいく。
『ああ。あの蝶、このヴィーンラディには生息していない種類のものだった』
「ということは、どこか外国から紛れ込んできたと?」
『紛れ込んできた可能性は低いな。どっちかっていうと捕まえてここに持ってこられていろいろと改造されてあんな感じになったんじゃないのか? 粉の成分を調べてみた結果、普通の蝶からまき散らされる花粉みたいなものじゃなくて、高濃度のしびれ薬と幻覚剤、それから麻薬に媚薬に興奮剤とありえない薬物ばかりが検出された』
持ち歩いている簡易検査キットでこんなに出るんだからな、とアサドールは自分の懐から取り出した注射器を見せて呆れた表情を見せる。
どうやらこれもあのニルスの息がかかっているかもしれない……とルギーレとルディアは思っているのだが、問題はその蝶がどこから持ち込まれたかということだった。
「それで、その蝶はどこの国のものなのですか?」
『それがだな……蝶は北のアーエリヴァに生息しているものだったんだ』
「アーエリヴァ? じゃあ、この世界で一番の国土の広さを持っている国に調査に向かわなければならないということか?」
エルシュリーの疑問に、アサドールはしっかりと首を縦に振った。
だが、話はそれだけで終わらなかった。




