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352.蝶

 この実験場は様々なタイプやシチュエーションの実験をするために、広くて天井の高く作られている。

 そこにいる魔術師たちを相手にして、たった二人で戦っていたヴェンラトースとハワードの奮闘ぶりはかなりのものと言えるだろう。

 しかし、その二人も限界が近づいてきていたらしく、今は疲労で汗がダラダラ流れているしその表情も疲れているし、ハアハアと荒い息を吐いている。

 その二人をアサドールが回復魔術で治療して、再び戦えるまでに疲労と身体の傷を治す。


「ああ……すまない、助かったぞ」

「それにしてもあれは何なんだ? どう見ても蝶にしか見えないが……」


 アサドールに礼を言うヴェンラトースと、先ほど女が繭から生み出した蝶を見てバスタードソードを構えつつ首を傾げるハワード。

 だが、こんな場所で不自然にある繭の中からボタン一つでバリバリと外に出てくる生物だ。絶対に普通の蝶ではないだろうとここにいる全員が思っている。


「わかりませんが、俺だってあれがまともな生物とは思えませんね」

『吾輩もだ。見た目は白と黒の身体を持っている蝶がかなり大きくなっているだけだと思うが、気になるのはあの羽が動くたびに飛び散っている金色の粉だな……』


 アサドールの言う通りでサイズが普通の蝶と比べるとかなり大きく、それこそ大熊ぐらいの体躯を持っていると言っていい。

 それだけでも結構な威圧感があるというのに、彼のいう金色の粉が振りまかれている状況を見るととても正常な生物だとは思えないのだ。


「あの粉に触れたら何が起きるかわからないな。ここは距離を取りつつ魔術とか弓で攻撃するしかなさそうだ」

「それは……まぁ、その通りなんだが」

「ん?」


 ヴェンラトースが冷静に相手の出方を窺い、自分たちの攻撃手段をどうするべきかを口に出したのだが、それについてハワードが口ごもってしまう。

 それについて、ハワードはここに自分たちが乗り込んできてからの一連の流れを振り返ってヴェンラトースにこんな質問をする。


「ヴェンラトース隊長、ここに来てからの俺たちがどうやって戦っていたかを説明できるか?」

「え、ここ……っていうのはこの部屋に来てからですか?」

「そうだよ。それから向こうの魔術師たちがどうやって戦っていたかも同時に説明してくれ」


 蝶がバタバタと羽ばたいているだけでこちらに向かってこようとしないのをいいことに、ハワードが突然そんな質問をしてきたのでヴェンラトースはやや戸惑いながらも、そこは一緒に戦っていたのでしっかりと答える。


「こちらは……自分の武器での攻撃の他に敵が落とした武器を拾い、それで攻撃をしていました。それから魔術師たちは普通に魔術で攻撃してきていたかと思いますが……」

「うーん、その答えだと残念ながら六十五点というレベルだな」

「え……」


 自分で見落としているところはなかったはずだ。それなのに六十五点?

 ならば何が自分の答えに足りなかったのだろうかと首をかしげるヴェンラトースに対し、その不足している答えをハワードが述べ始める。


「確かに魔術師たちは魔術で攻撃してきていた。だが、相手は火属性の魔術を使ってこなかったんだよ。その理由がわかるか?」

「……あ!」


 ここでヴェンラトースが気が付いた。

 そうだ、この部屋に入ってから自分とハワードがどうやって戦ったかといえば……。


「火属性の魔術を使っていない……それから相手の魔術師たちも使わなかった。この部屋は魔術の実験場ではあるものの、外部の人間たちを入れないように徹底的に管理しているおかげでここでも麻薬を作っていることがわかりましたから、その麻薬を作るためには火気厳禁の環境を作り出さなければいけない。だからあの蝶に対しても、向かってくるようであれば火属性の魔術を使ってはいけないんですね!」

「そうだ。普段はなかなか冷静なのはいいが、今回は少し考えが甘かったようだな」


 そう言うハワードだが、あの女が生み出した蝶がいまだにこちらに向かってくる気配がないので、ここは全員で無視をして部屋を出ようと言い出した。


「虫だけに無視するってこういうことを言うんですね」

「失笑しかしないからやめてよね」


 渾身のジョークを飛ばしてみたものの、冷静なルディアの声で完全に滑ってしまったのを理解したルギーレは、一行の後に続いて部屋を出ていこうとする。

 しかしその時、背後でバサバサと羽ばたいていた蝶の羽ばたくリズムが変わったのを彼が気が付いたことによって、どうしても蝶と戦わないとこの部屋から出してくれないというのが判明したのである。

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