34.炎の悪魔
「炎の悪魔……って、もしかしてあれか!? 彼が立った戦場は炎に包まれ、跡形もなく燃え尽きてしまうって噂の傭兵か!?」
「そうだよブラヴァール。だが、城まで燃やされちゃあ俺たちだって黙ってるわけにもいかねえんだよな」
侵入した賊というのも、そしてこの大火事を起こした張本人もきっとこいつに違いない。
まだ立っている三人がそう思っているのに対し、炎の悪魔は武器を回している手を止めた。
「ま……なんにしても俺の目的はまだ果たせちゃいねえ。この皇帝が知らねえんだったらお前たちに聞くわ。この城に最近保管され始めたっていう、北の遺跡から見つかった剣はどこにある? それさえ手に入れれば、俺だってこれ以上ここを燃やしたりしねえでさっさとずらかってやんぜ」
「あなた、ふてぶてしいにもほどがあるわね。そもそも皇帝陛下を手にかけておいて、死罪以外の道があるとでも思っているのかしら?」
「うん」
炎の悪魔は迷いなしにうなずいた。
「だってほら、お前ら全員殺して逃げてもいいわけだし。この倒れてる奴らもまだ息があるけどよぉ、こいつら三人は人質だ。お前ら三人に一人ずつ剣のありかを聞いてっけど、答えない場合はこいつら一人ずつ殺してくから覚えとけよ」
それじゃまずお前からだ、と指を差されたのはルディアだった。
「北のジゾって場所にある遺跡から見つかったって剣、あれはどこにあるんだ?」
「そんなの私が知るわけないじゃない。そもそも私は部外者なんだから!」
その返事を聞き、炎の悪魔は片眉を器用に持ち上げる。
「んん、部外者だあ? 部外者が何でこんなところにいるのかねえ?」
「答える必要はないわ。それよりもあなたの名前とか正体とか、そういうのをあなたの口から聞かせてもらえないかしら?」
そっちの素性もよくわかっていないのに、そんなことを聞かれても答える必要はないとルディアは返す。
そんな彼女の心の中は、一刻も早くあの倒れている三人を魔術で医療しなければ命がどんどん危うくなっていく! という焦燥感でいっぱいだった。
だが、ルディアが自分の質問に答えないと頭で理解した炎の悪魔は、そのまま右手のロングソードを自分の足元に倒れているルギーレに向かって振り下ろす準備をする。
「フン、誰が言うかよ。それよりも約束を守らなかったからこいつから処刑ぐあ!?」
「……!」
「今だ!!」
その時、異変が起こった。
倒れていたはずのルギーレが身を起こし、渾身の力で炎の悪魔の右足に頭突きを入れたのである。
噛みつかれたほうはすぐにルギーレを右足で蹴り飛ばしたのだが、その大きな隙を見逃すわけもなく、騎士団員二人が悪魔に向かっていく。
ルディアは治癒魔術の光を両手に生み出し、まずは自分から一番近い場所に倒れているザドールに魔術をかける。
続けてディレーディ、そしてルギーレと続けて魔術で回復させ、三人を何とか立たせることに成功した。
「う……あっ!」
「くっ、あの男……!」
「ぐぅぅ……あ、あれ? ルディア?」
「よし、立てたなら大丈夫ね。早くここから逃げましょう!」
ここは騎士団員の二人に任せ、ルギーレとルディアはディレーディを守りながらザドールとともに脱出を開始する。
だが、予想以上にすぐ近くまで火が回ってきている。
「うわっ、通路がもう炎でやばいぞ!!」
「こっちだ、急げ!」
リーレディナ城の内部構造を知り尽くしているザドールの道案内に従い、三人は隠し通路を通って外へと脱出を目指す。
「ここはディレーディ陛下をはじめ、皇族の方々や貴族の方々を優先して逃がすことができるために造られた通路だ」
「こういう緊急事態の時に使うのね」
「そうだ。ここを抜けたら市街地の外れに出る。そこから街の外へと脱出するぞ!」
しかし、ザドールの後ろに続いているディレーディは別のことを考えていた。
「予知夢の通りになってしまったな」
「え?」
「前に我らに言っていただろう。我が炎の壁に囲まれている中で、誰かに殺されようとしている夢を見たとな」
正直、ルディアの話をまったく信じていなかったディレーディやザドールは、こうして今その予知夢が現実となってしまったことにある種の恐ろしさを感じていた。
そしていろいろと考えた結果、ディレーディはある一つの決断を下す。




