350.黒幕の行方
そして、アサドールに治療してもらった三人の人間たちが歩けるようになるまで回復したことで再び黒幕を追いかけることができる。
「先行していったはずのヴェンラトースさんとハワードさんの安否も気がかりです。先を急ぎましょう」
「もちろんだ」
走りながらジェクトにも事情を説明し、一行は研究所内部を走り回って出てくる敵をとにかく倒していく。
そして、ジェクトからは先ほどのサルインとヴィルリンと対峙していた時に得られた情報が伝えられる。
「あの白い髪のヴィルリンってのが騎士団に所属してたんだが、魔術師部隊の所属だ。そしてその魔術師部隊にはあいつと一緒にいた黒髪のサルインを始めとする麻薬ブローカーと関わりを持っている人間が複数いたらしい」
「その魔術師部隊の連中が、今回の事件で消えた魔術師たちだと?」
「ああそうだ。あの二人が俺に自白してくれた。地下で麻薬を作っていた連中もそうなんだが、どうやら黒幕は別にいるらしい」
「黒幕……」
あの逃げて行った、二色の髪の女が怪しい。
というか彼女しか考えられないルギーレたちは、何としても彼女を捕らえていろいろと話を聞かせてもらわなければ納得できないのだ。
しかし、ジェクトは彼女のことを知らないらしいのでここで伝えておく。
「……というわけで、その女が黒幕じゃないかと」
「話を聞く限り、俺もお前たちと同じ考えだ。だがこの魔術研究所は広いみたいだから、どこに隠れているのやら……」
何回か来たことがあるメンバーがあるとはいえ、完全に内部構造を把握できていない今、ここは戦力を分散させずに全員で固まって進むべきだろう。
そう考えたルギーレだが、先行しているヴェンラトースとハワードも探さなければならないのを思い出し、ここはメンバーを半分ずつに分けようと提案する。
「それはいいんだけど、私たちは合わせて五人しかいないわ。どっちかが三人になるわよ?」
「あーそっか。じゃあ……ヴェンラトースさんとハワードさんを探す方を三人にしようと思う」
話し合いの結果、二人を探すメンバーがルギーレとアサドールになった。
残りのルディア、ジェクト、そしてエルヴェダーはあの逃げて行った黒幕らしき女を探すことに決めたのだが、これもちゃんとした考えがあってのメンバーの振り分けだった。
『まったく、俺様だってこのずぶ濡れの身体が完全に乾けばこの研究所なんて一瞬で灰にできるってのによ』
「物騒なこと言わないでくださいよ。……ん? 灰?」
「どうした?」
黒幕の影を追いかけて研究所内を探索する三人の中で、ルディアが懸念事項を頭の中に浮かばせる。
それは、自分たちという部外者がこの研究所の中に入り込んだことによる敵の動きについてだった。
「いや、考えたんですけど……私たちにあの地下の施設を見られたり、さっきの二人組を殺されたりしているわけじゃないですか、敵たちは」
『そうだな。それにほら、お前があの教祖様代理ってのを殺したんだろ?』
「……ああ、俺が最終的にとどめを刺した。それが何か?」
不都合なことでもあるのか? とジェクトが聞くが、ルディアは自分がもし敵の立場だったとしたらどう出るかを考えていたのだ。
「いや、あのー……この研究所の証拠をすべて抹消されてもおかしくないような気がするんですよ」
「あっ……なるほどな」
『ははあ、証拠隠滅ね』
二人の男も彼女が言わんとしていることに気が付いたらしい。
「俺たち部外者がこの研究所に入ったということは、ただでさえ研究所の中で見られたくないものとか、まだ世の中に出すわけにはいかない極秘研究の内容とかの流出を避けるためとか、地下のあの事実を喋られるわけにはいかないとかで、俺たちを抹殺しに来る可能性が高いということだな?」
「そうでしょうね。そしてさっき私やエルヴェダーさんが見かけたあの女……きっと何かを知っているはずだと思います」
そう言うと、彼女は探査魔術を展開してこの研究所内部を隅々まで調べてみる。
しかし……。
「あれ?」
『どうした?』
「いや……探査魔術が機能しないんですよ。生体反応を調べてどこにどれだけの人間がいるかを調べようと思ったのに」
『えー、そうか? 俺様も少しだったら使えるけど、やってみるよ』
だが結果はエルヴェダーの場合でも変わらず。
まさか伝説のドラゴンが使用する魔術ですら、この研究所内部では遮断されてしまうのだろうか?
それについては先にこの研究所の中に入ってきていた、ジェクトが一部事情を知っているらしい。
「……そういえば、不用意に魔術を使って思わぬ事故が起こらないようにするために、この研究所の内部では魔術の使用を一部制限させるための文様が壁の中や床の下などに描かれているらしい。あの白黒コンビが言っていたぞ」
「ええっ、それじゃあ……」
『アサドールの切り株が鉄の壁に潰されたのも、本来の強度が出なかったからと考えると納得できるぜ』
どうやら、前途は多難らしい。
ここは親からもらった足を使って、地道に捜索活動をするしかなさそうである……。




