346.ハイテクノロジー
警報が鳴り響く研究所の中を、一行は魔術師たちや警備兵たちを倒しながら進んでいたのだが、その途中で先ほど自分たちに向かって台車を落としてきた女の姿を発見した。
「プレデバーグ副長、あの女!」
「さっきのあの女だな! 今度こそ逃がさないぞ!」
「くっ!」
見つかってしまった女は、一行の姿を見ると短剣も構えようとせずにすぐに踵を返して走り出した。
戦う気がもともとないわけではなさそうだが、先ほどアサドールの不思議な魔術によって自分の台車攻撃を完全にブロックされてしまっているので、真っ向勝負では勝ち目がないと判断しているようだ。
それならそれでルギーレたちにとっては都合がいいので、ヴェンラトースとハワードを先頭に追いかけるルギーレ一行だったが、今度はその一行の追撃を女がブロックする番がやってきた。
一行と比べて装備が軽い分、意外と逃げ足の速い女がすぐ先にある十字路を左に曲がったのを見て、一行も迷わずそこを左に曲がる。
しかし、その一行の目の前には女の背中ではなく、上から速いスピードでガラガラと音を立てながら下りてくる、金属製の壁の姿があった。
「なっ!?」
「バカ、止まるな! 突っ切れ!!」
ヴェンラトースが思わず足を止めてしまいそうになったのを、後ろから追撃していたハワードが彼の背中を押して突っ切るように促した。
そのおかげで二人は女の背中を見失わずに済んだものの、さらにその後ろから追いかけてきていたルギーレたちはそうはいかなかった。
「まずい、通路が塞がれる!!」
『くっ!!』
アサドールが咄嗟に自分の能力を使って、大きな切り株を地面から生み出して鉄の壁が完全に閉まり切るのを防ごうと思ったのだが、その下りてきた鉄の壁は何とその生み出した切り株を潰してしまったのだ。
『な……なななななっ!?』
「これじゃ通れないわ! どこか別のルートを探さないと!!」
『くっ……ならばこっちのルートだ! 吾輩についてこい!』
この研究所に何回か入ったことがあるアサドールが、自分の魔術が人間の技術によって防がれてしまったことに驚きを隠せないままの心理状態で、先に壁の向こうへと消えていったヴェンラトースとハワードを追いかけるべくルギーレとルディアとエルヴェダーを先導する。
ドラゴンたちは人間の姿であっても、本気を出せばドラゴンの姿の時と同じ位の威力でパンチやキックを繰り出せるのだが、研究所に及ぶ被害のことを考えるとなかなか本気のパワーを出すのははばかられることだった。
だからこうして迂回するルートを選んで再び走り出した一行だが、そんな一行の目の前にはまたもや鉄の壁が下りてくる。
今度は完全に下り切る前に全員がくぐり抜けることができたので一安心できたものの、こんな設備を初めて見るルギーレは説明してもらわなければ納得できなかった。
「何なんですかあれ、アサドールさん!?」
『あれは防御壁だ』
「防御壁?」
『そうだ。例えばこの研究所の中で火災が発生したとしよう。そうなった時に火の延焼を抑えて被害を最小限に防ぐべく、鉄の分厚い壁を下ろすことによってこうして遮断するシステムになっているんだ』
しかし、それも使い方を変えるとこうして自分たちにとって邪魔な存在の壁となってしまう。
エルヴェダーやアサドールの攻撃でも壊せないことはないが、何せその壁の素材が素材なのでこうやって迂回するルートで進むよりも壊す方が時間がかかってしまい、結果的にどんどん通路を塞がれてしまうということらしい。
『最悪の場合は閉じ込められて終わりだってことかよ!?』
『そうなるな。そして解除するのも全てが終わった後になるから、もし閉じ込められたら終わりだ。だから吾輩たちで何とかして、あの女やここにいるはずのジェクトたちを捜すんだ!』
この研究所内の敵は、どうやら襲いかかってくる人間たちだけではなくハイテクノロジーを結集させた設備もそうらしい。
少なくとも、この展開になれば研究所内部の構造を熟知している敵の方が有利なのは間違いなかった。
だったらその敵を倒して進むだけだ、と意気込み直すルギーレだったが、この研究所に設置されているハイテクノロジーは壁だけではなかった。
『こっちだ!』
アサドールの先導で迂回するルートを通り、先ほど先行するヴェンラトースとハワードの二人と分断させられてしまった壁の向こうの道へとやっとたどり着いたルギーレたちだったが、その一行の目の前に見知った顔が現れたのはその時だった。
「ぐおおっ!?」
「え……?」
ルギーレたちが走り抜けている通路の横にある部屋の一つから、ぶっ飛ばされる形で廊下に出てきたのは、黄緑色の髪の毛をオールバックに整えた中年の男……バーレンからやってきたジェクト・ルーデンだった。




