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344.白い粉と謎の女

 それに、と今度はハワードが話し始める。


「シュアとヴィーンラディの消えた魔術師たちかどうかは知らないけど、よからぬことを考えている魔術師はどうやらここにいるみたいだし」


 そう言いながら、死体となっている人間が着込んでいる上着のポケットからはみ出ている、あるものを取り出して一行に見せる。

 それに真っ先に気がついたヴェンラトースが、驚きの声をあげるのも無理はなかった。


「そ、それは!?」

「この上にあるであろう魔術研究所の、入館に必要なカードだよ。これがなければ出入りはできない。これを持っていると言うことはつまり……」

「ここで麻薬を作るのに協力していたってことか……」


 しかし、その白い粉を舐めたアサドールは妙なことに気がついた。


『あれ……ちょっと待ってくれ。これって麻薬は麻薬でも何か違うんじゃないか?』

「何で味を知っているんだ、何で……」

「……って言われても、私たちは麻薬なんか舐めたことないですからなんとも言えないです」


 アサドールに質問されて思わず突っ込みを入れるヴェンラトースと、率直な答えを返すルディア。

 その二人のリアクションを見て、アサドールも『あー……』と聞く相手を間違ったことを悟る。


『それもそうか。吾輩は学者で色々な薬を取り扱っている。と言っても麻薬はそなたたちヴィーンラディの者とともに研究材料でしか扱わないがな。それでこの白い粉なんだが、普通の麻薬に使われるようなものとは少し違う気がするんだ』

「わかるのか?」


 ハワードの驚きに、アサドールはしっかりと頷いた。


『わかる。伊達に二千年以上生きているわけではないからな。この粉は麻薬ではなくて何か別のものを作るのに使ったのではないか?』

「別のものって言われましても……俺にはさっぱりですよ。ルディアは何か予知夢とか見てないのか?」

「ううん、こんな光景は全然見たことないわ。でも麻薬じゃないとしたら何を作っているのかしら?」


 もしかしたら、この大量の犠牲者が出ている部屋の中に何を作っているかの資料などが残されている可能性がある。

 以前起きたファルス帝国での工場がらみと同じように、今回もまた痕跡が残されていても不思議ではないだろう。

 そう考える一行は地下部屋の中を探し始めた……のだが、その前に邪魔者が割り込んできたのだ。


「もー、あんなの敵うわけが……ん?」

「えっ?」

「なっ、何よあんたたち!?」


 ドタバタと騒々しい音を響かせて地下部屋に現れたのは、髪の毛が相手から見て左側が赤、右側が青くなっている、痩せ身の若い女だった。

 黒いシャツに緑色の長ズボンという、研究所の中とは思えないような非常にラフな格好をしており、首からは四角いアクセサリーのついているペンダントをぶら下げている。

 そしてその両手には、彼女の武器であろう短剣が一本ずつ握られているではないか。

 彼女はルギーレたちの姿を視界に捉えてかなり驚きの表情を見せたものの、すぐに踵を返して階段を上に上がっていく。


「あっ、ちょっと待て!!」

「追うぞ!」


 ルギーレとハワードが同時に駆け出して、謎の女を追いかけて階段を上がっていく。

 しかし、その階段の上には沢山の物品が入れられている箱をいっぱい乗せた台車を、階段の下に向かって落としてきた女の姿があった!


「や、やべえっ!!」

『任せろ!』


 一目散に逃げだそうとするルギーレたちだったが、その中で動いたのがアサドール。

 彼は前に自分で説明していた通り、木や草花を自分の力として操ることができる能力を持っているドラゴンなので、ここで彼のその能力が役に立つ時が来た。

 ここが地下であるということから、簡単にその木のエネルギーを借りることができた彼は、何もないはずの地面と壁を突き破る形で木を何本も突き出させたのだ。


「うそっ!?」


 その何本も出現した木によって、せっかく落とした台車と荷物も中途半端な場所で止められてしまった女は、とりあえず自分だけでも逃げおおせるべく一階へと上り切った。

 しかし、その彼女の左の足首に突然伸びてきた植物のツタが絡まる。


「きゃっ!?」


 全く予期していなかった妨害に、受け身すら取れずに前のめりの状態で無様に転倒してしまう女。

 しかし両手に握っていたのが短剣だったことが不幸中の幸いでもあった。

 その短剣を使ってツタを切断し、全速力で走りながら大声で叫ぶ。


「敵襲~! 敵襲~!!」


 更に彼女は走り続け、二階へと続く階段のそばに設置されている非常警報装置のボタンを、右手で叩き壊すぐらいの勢いで押す。

 その瞬間、魔術研究所の中にブーッ、ブーッと低い警報が鳴り響き始める。

 それはこの研究所にいる多数の魔術師たちが、防戦のために動き出したことを示す合図だった。

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