341.動き出す外国人たち
「じゃあ、その船団の連中が麻薬を扱っているかもしれないってことで調査に向かうつもりなんだね?」
「ええ。今まで他の国でも色々とトラブルに巻き込まれてきましたし、その影には必ずと言っていいほど勇者マリユスとかタチの悪い傭兵団の姿がありましたから」
今回も、そんな不審な船団を動かしている連中がいるんだったらそいつらが関わっていてもおかしくない。
ルギーレはそう考えるのだが、実はそれをレラヴィンも考えていたのだという。
「……陛下から君やルディアのことについては聞いているよ。近々開かれる武術大会で、君がルディアを賭けて……あ、いや失敬。君がルディアを自由にするために戦うんだってね?」
「でもその前に、あの戦闘機とやらがまた新たに襲ってくる可能性がありますから、この国にもきっといるであろう旧ラーフィティアの連中とかを排除しないといけないんです!」
だから、怪しい所や怪しい人間の噂があれば即座に向かって真相を確かめるべく動きたい。
ルギーレの願いはそれなのだが、ここはヴィーンラディの中なので全ての決定権は自分たちにはないこともわかっている。
一方のレラヴィンは意外と早食いでもう食事を終えており、お茶を飲みながらそのルギーレの話を聞いていたのだが、ヴィーンラディにも譲れないことはあるらしい。
「それはいいけど、まだ君たちをこの王都から外に出すわけにはいかないよ」
「どうしてですか?」
「まだ、君たちの協力者であるバーレンのルーデン副隊長が戻ってきていないじゃないか。彼を放っておきながら向かうつもりなのかい?」
「あ……」
そうだ、今までの話でヒートアップしてすっかり忘れていたのだが、ジェクトが宗教団体の中に乗り込んでいったとの話があった。
そしてそれから今まで続報がないのだが、果たしてジェクトはどうなっているのだろうか?
目先のことばかりに囚われて、周囲を見ることができていなかったと認識したルギーレはクールダウンし始めるが、南からきているであろう妙な船団を調査するのもやはり重要だ。
その考えもわかっているレラヴィンは、ヴェンラトースとハワードにこう命じた。
「君たち、食事が終わったらこの二人と一緒に王都を回って戦いの準備をさせてあげて」
「えっ!?」
「な、何をおっしゃるのですかレラヴィン様!?」
「君たちしか動けないからだよ。表立って動けないのなら、最小限の動ける人間だけでさっさとカタをつけるのが一番だ。シェオルやジェラードたちも動いてくれているけど、せっかく彼がレイグラードを持ってここまで来てくれたんだから、ちゃんとやってくれるって僕は思っているよ」
それに、とルディアの方に目をやってレラヴィンが続ける。
「こっちには予言者の彼女もいるんだし、今まで何度も我が国のピンチを救ってきてくれた。失踪していた時のことも聞かせてもらったけど、彼女は予言者であると同時に我が国でも有数の実力を持っている魔術師でもあるんだ。ここは一度、予言に頼らなくても脅威を殲滅できるということを見せてもらおうじゃないか?」
結局、ジェクトと連絡が取れない状態で王都から出ることは許されなかったものの、いつでも出立できるように城下町で色々な物を買い込んだり情報を集めることにする。
しかし、ヴェンラトースとハワードが一緒ならば迂闊な行動はできない。
それを聞いたルギーレは、ならばこちらもとこの二人の同行を申し入れた。
『はあー、やっとあの狭い場所から出られたぜ』
『吾輩をあんな場所に閉じ込めて、本来ならばこの国を丸ごと森の中に食わせてしまってもよかったのだが、今回はルギーレとルディアの顔に免じて許してやる』
そういうエルヴェダーとアサドールの二人を牢屋から出してもらい、未だに連絡が取れないジェクトを探すのも兼ねて城下町へと向かった一行だが、ここでアサドールが何かを感じ取った。
『……!』
『どうした?』
『これは……この気配はそのジェクトとかいう魔術剣士のものか?』
歩くのを止めて目を閉じ、両耳に両手を当て神経を研ぎ澄ましたアサドールは、カッと目を見開いて進行方向とは逆側を指差した。
『向こうだ! 向こうからバーレンの香りがするぞ!』
『……そうかあ? 俺様には何も感じねえけど』
『お主はエスヴェテレスとシュアの人間の香りならわかるはずだ。しかし、今のその香りを感じられるのは吾輩だけ。きっとそのジェクトとかいうのは向こうにいるぞ。ついてこい!!』
「あ、ちょ、ちょっと!?」
いきなり全速力で走り出したアサドールを追いかけ、エルヴェダーと人間たちも走り出した。




