33.炎
「おい、火の回り方が異常に速いぞ!?」
「集められる人員すべて集めろ! それから井戸も全部解放だ!」
窓の外から聞こえてくる騎士団員や魔術師たちの会話が、ルギーレの耳にもハッキリと聞こえてきていた。
その一方で、ルディアの鼻が奇妙な臭いをキャッチしていた。
「油の臭いがする……」
「油? ってことはもしかしてこの火事は放火か?」
「そうみたいね! それにさっき、ガサガサって音が聞こえたってあなたが言ってたから、私が思うに誰かが草とかの燃えやすいものに火をつけたのかも!」
「……くそっ、これじゃ予知夢の通りになりそうじゃねえか!」
こんな予知夢だったら当たってほしくなかったが、さらにルディアが炎の荒れ狂う方向に違和感を覚えた。
「ちょっと待って、魔力を感じるわ!」
「魔力だって?」
「そう。だからこの火災は魔力を使ったのかもしれないわ。なんにせよただの火災じゃないわよ!!」
もしこれが予知夢の通りだとすると、狙われているのはこの城と……ディレーディだろう。
そう直感したルギーレはディレーディのもとに向かうべく、彼の執務室へと急いだ。
「くっそ、こんなことになるんだったら無理にでも陛下の寝室を聞いておけばよかったぜ!!」
「そうね! 今の私たちは執務室の場所しか知らないからね!」
苦々しい顔つきのまま二人はその執務室へとたどり着いたが、どうやら扉にカギがかかっているようだ。
「くそ、開かねえぞ!」
「どいて! カギを壊すわ!」
ルディアが右手に生み出した魔力のエネルギーボールを扉に当て、カギが壊れたドアを全力で蹴り破るルギーレ。
しかし、その部屋の中はなんともぬけの殻だった。
「……いない!?」
「きっとここじゃないのよ!」
「ちっきしょう、あーもう無駄な時間食った……ぜ?」
だがその時、執務室の窓が開けられていることに気が付いた。
防犯意識が無いなあと思ったのも束の間、その窓の外から聞こえてくる、聞き覚えのある声をルギーレの耳が捉えた。
「な……なんだ貴様は!?」
「教えろよ。あの剣のありかをよぉ? そうすりゃー俺だってこれ以上ここを燃やしたりしねえぜぇ?」
その声の正体、そして聞こえてくる場所に気がついたルギーレは窓枠に手をかける。
「上だ、この上からサイヴェル団長の声が聞こえてくる!!」
「えっ、わかるの?」
「ああ。それから知らねえ奴の声まで聞こえてきてる! 俺はこのまま上に行くぜ!!」
「ちょ、ちょっとルギーレ!?」
窓枠にかけた足に力を込め、そのバネを利用して垂直跳びで真上の階にまでたどり着いたルギーレだったが、肝心のルディアが置き去りになってしまった。
「ちょっと、私を置いていかないでよ!」
しかしルギーレが戻ってくる気配がないので、城の中を通るルートで上の階へと向かおうと廊下に戻ったルディアは、そこでワイバーンで迎えに来た騎士団員の二人組と遭遇した。
「おっ!? あんたは魔術師の!?」
「おいおい、君がどうして陛下の執務室にいるんだ!?」
「ちょっと急がないとまずいんです! このままだと陛下が危ないみたいなんです!」
どうやら行き先が一緒らしいシュヴィスとブラヴァールに出会ったルディアは、走りながらその二人にディレーディの寝室に案内してもらう。
だがそれと同時に、よくない話も一緒に聞くことになった。
「それは私たちのほうも聞いている! どうやら賊が侵入したらしい!」
「しかもそいつが今回の火災を起こしたやつらしいんだ! 今、俺たちの仲間が消火活動にあたってるんだがそれ以上に火の回りが激しくてどうにもならねえ!」
「さっき魔力と油の臭いを感じたんです! ですからきっと、この火災は簡単には消えない気がします!」
賊とやらの正体もまだつかめないが、先ほどルギーレの耳に聞こえたという聞きなれない声の主がそうなのだろう。
ルディアがそのことを話しつつ走っていった先には、やはりディレーディの執務室の真上に位置する部屋があった。
今度はその出入り口のドアを騎士団員の二人が、きれいに揃った鋭い蹴りで蹴破って中へと突入する。
するとその部屋の中には、すでに床に倒れこんでいるルギーレとディレーディ、そして愛用のハルバードを構えているザドールと、見知らぬ男の計四人の姿があった。
「フン……てめぇらはちっと遅かったな? こいつらはすでに虫の息だぜ?」
「き、貴様! 陛下に何を……!!」
「決まってんだろうが。こいつがなかなかレイグラードとやらのありかを吐かねえから痛めつけてやったんだよ。それから助けに来たそこの弱っちいのもだよ」
ニタニタと薄ら笑いを浮かべる赤毛の男は、愉快そうに自分の獲物の双剣をぐるぐると回しつつ、新たなる侵入者に対抗するべくゆったりとした足取りで近づいてくる。
そんな彼にザドールがハルバードを構えて向かっていくが、男はザドールを鋭いキックで沈めてしまった。
「ぐふぉぁ!!」
「だ、団長っ!?」
「騎士団長とやらも大したことねえぜ。こんなんじゃあ、遊び甲斐が全然足りねえんだよなぁ~」
騎士団長のザドールでさえもかなわないほどの実力を持つこの男は、いったい何者なのか?
それに最初に気が付いたのはシュヴィスだった。
「まさかお前、炎の悪魔か……!?」




