340.繋がり
しかし、外国産の麻薬といってもどこから運ばれてきたのかは見当がついていないらしい。
「色々と成分を分析してみたんだが、このヴィーンラディでは滅多に見られない草から生成されている麻薬だとの結果が、魔術師たちを中心に結成された研究員たちからの報告で上がってきている。しかし、北のアーエリヴァにも西のシュアにも、それこそその先のファルスにも生息している草だから、いったいどうやってどこから侵入してきたのか見当もつかない」
「え……あ、それだったら俺たちが越えてきたあの山のルートは?」
あそこが運ぶには一番適しているでしょ? とルギーレが言うものの、それに答えたのはハワードではなくてヴェンラトースだった。
「アホか、お前。そんなことはすでにこちらでも考えているし一帯を捜索している。しかしそんな麻薬を運んだような痕跡や目撃情報は一切掴めていない!」
「そもそもあんな人気の登山道を麻薬を積んでいるような馬車とか人とかで通ったりしたら、それこそ目立って仕方ないじゃない」
「そ、そうか……。だったらワイバーンで夜の闇に紛れて運ぶって手もあるんじゃないですか?」
「それも目立つだろうね。翼のはためく音ってかなり大きいから。それにワイバーン一匹では運べないほどの量が国内に出回っているから、小分けにして運んできたら不審なワイバーンの目撃情報がわんさか入ってきているはずさ」
こうした戦術には疎いルギーレに代わって、それを聞いていたルディアが「もっと目につかないルートがあるじゃない」と言い出した。
「今話題の、海を使ったルートよ!」
「……あ!」
大陸の南側に集結していたという、ジェクトが見た謎の船団。
それがもしかしたら麻薬を運んできている船なのかもしれない。ルディアはそう思ったのだ。
船であれば大量の麻薬を一気に運び込むことができるし、ワイバーンのようにうるさくないので人目につかない場所で停泊すれば、それこそ夜の闇に紛れて上陸することも可能だろう。
「船のスピードは遅いと聞いたことがあるんだけど、その遅さがかえって目立たない場合もあるわ。人間は動き回るものに対して視線を捉えがちだからね」
「しかも私たち警備隊や騎士団の人間は、それこそアーエリヴァやシュアの陸地からやってくる不法入国者ばかりを日々捕らえたりしているから、ますます海の方には目が行き届かない……」
「極め付けには、魔物の生息区域が国内の南側に集中しているせいもあって、俺たちは魔物の討伐に集中しなければならない。そして疲弊して海の方を調べる気力もわかないし、そもそも魔物がわんさかいるような場所に人が住むような真似はしない……」
そう考えれば、南側から船を使って麻薬を運んでくるというのは非常に理にかなっているといえるのだが、まだ証拠が足りない。
「じゃ、じゃあその麻薬を運んできていると思わしき船をさっさと締め上げましょうよ!」
「いいや、それがそう簡単には出来ないんだ」
「えっ、どうしてですか?」
「証拠がないのに積み荷を勝手に検めて、そして損害賠償とかって話になったら騎士団や警備隊の評判が落ちてしまう。それにその船団の連中がどんなのかわかっていない今、むやみに突っ込むのは自殺行為だ」
いやいや、ちょっと待て。
そもそもすでにシェオルやジェラードなどの騎士団員が動いているというのに、それについて行かなくてどうするんだ?
ルギーレの頭の中は疑問符でいっぱいだが、それよりも先に出ていた考えが彼の口を動かしていた。
「……だったら俺が行きますよ」
「は?」
「だってそれ、結局騎士団が動けないんでしょ? 早期発見をして早めに叩き潰すべきですよ。騎士団や警備隊の評判が落ちてしまうから無理だ? そーいうのって、単純に考えてヘタレって奴じゃないっすか?」
「な、何だと貴様あ!?」
ハワードがルギーレの胸ぐらを掴むが、そこに現れた別の人間が彼を止める。
「ヘタレか。確かに君の言う通りかもしれないな」
「……レラヴィン様!?」
部屋をノックして入ってきたのは、オレンジ色の髪の毛にこれまたオレンジ色の瞳を持っている細身の男だった。
そしてハワードが「レラヴィン様」と名前を発言したこともあり、ルディアは久々に見るその顔に覚えがあるのを思い出した。
「レラヴィン様……」
「だ、誰?」
「この国の宰相様よ! あ、あの……今の会話を聞いてらしたのですか?」
「まあね。僕も盗み聞きするつもりはなかったんだけど、君たちに食事の用意ができたって伝えにきたら気になる会話をしてたから」
だから続きは食事をしながら話そうか、とレラヴィンに場所を変えられた一行は、用意された食堂へと向かった。




