338.真の目的
「教祖様にお会いして、一体何をしようというのです?」
「それは……挨拶だ」
「挨拶?」
色々な意味での挨拶をする予定なので、まあ間違ってはいないだろうと考えた上でのジェクトの発言。
だが、そこになぜかヴァスも乗ってきた。
「ああ、そうだ。俺も挨拶に行きたいなあ」
「あなたまで……申し訳ございませんが、正式に入信の手続きを取られていない方には教祖様の素性を明かすわけにはいきません」
「おいおい、ちょっと待ってくれ」
ここが押しどころだと確信したジェクトは、思い切って一気にたたみかける作戦に出る。
「教祖様の素性もわからない宗教なんて、何だかうさんくさいな」
「うさんくさいですって?」
「ああ、うさんくさい。あんたは教祖様の代理だろう? 悪いけど、こっちも代理の教祖しかいないような宗教を信仰したくないんだ。きちんと教祖様に挨拶をして、そして入信するかどうかを決める。言っておくが、俺は一度信用したものはとことん信用するタイプだし、信じられないってわかったらすぐに離れるからな」
普段無口な自分が、よくここまで口が回るものだと自分で自分を褒めてやりたい気持ちでいっぱいのジェクト。
その一気にたたみかける作戦が功を奏したのか、教祖代理の男は少し考えてから頷いた。
「……わかりました。あなたの熱意は十分に伝わりましたので、教祖様の元へご案内いたしましょう。こちらです」
(このドアの奥か)
最初から気になっていた、地下部屋の奥に存在しているドア。
それをジェクトとヴァスが揃って通り抜けると、その先に待っていたのは教祖の姿だった。
「……おい、あんた俺たちをバカにしているのか?」
「そうだな。俺たちはバカにされているとしか思えない」
ただしその本人ではなく、肖像画での姿だったのだが。
そしてこの奥に案内してきた教祖代理の男の口調と雰囲気も、次の瞬間に変貌する。
「バカにされているだと? 冗談は寝てから言えよテメーら。バカにされてんのは俺の方だぜ」
「ん?」
ドアの奥にあったのは、教祖である男の肖像画が最奥の壁に飾られているそれなりに大きめの部屋。
物置として使っている部屋でもあるらしく、至る所に色々と物が山積みになっているが、どれもこれもただのガラクタというわけではないらしい。
そして教祖代理の男は、懐から取り出したナイフを二人に向かって投げてきた。
「うおっ……!」
「くっ!?」
「お前らごとき俺一人で十分だぜ!!」
いきなり豹変したこの教祖代理だが、それにはちゃんとした確信があったからだ。
「いきなり体験入信したいってのが二人も現れた。ここまではまだいいさ。だがなあ、教祖に最初から会わせろって言い出すのは初めてだよ、お前らが!」
「だからと言って襲う理由にはならないんじゃないのか? それともやましいことがあったから襲ったんじゃないのか?」
そう聞くジェクトだが、教祖代理の男の視線は彼にではなく、今の投げナイフをよけたことによってフードがめくれ上がったヴァスの方に向いている。
そのヴァスの素顔は金髪の若い男だった。
そして、そのヴァスと教祖代理との関係は驚くべきものだったのである。
「俺が殺してやりたいのは、この金髪のクレガーって奴だ! お前はついでだよ」
「クレガー?」
「ああ。フルネームはクレガー・ヴァスロール。このヴィーンラディの警備隊で副総隊長を務めている警備隊員だ!!」
「え……?」
教祖代理の男に指を差してそう紹介される、このヴァス……いやクレガーという男が警備隊員?
しかも今の口ぶりからすると、教祖代理の男はクレガーのことを知っている様子らしいが、それもそのはずだった。
「ふん、お前にだけは言われたくないな。こそこそ何をやっているのか知らないが、警備隊から指名手配されている存在のエルク」
「うっせー、うっせー!! お前のその気取った喋り方はムカつくんだよ!! ここでお前とその中年のオッサンぶっ殺して、教祖様への手土産に首持ってってやらぁ!!」
「やれやれ……」
クレガーいわく、本来このエルクという男は教祖でも何でもない麻薬組織のブローカーだという。
それなのになぜ彼が、こんなところで教祖様の真似事などをしているのだろうか?
更に飾ってあった教祖の肖像画、あれはどう見ても……。
(ニルス……だよな?)
以前、ルディアの証言を基にして似顔絵師にそのニルスの似顔絵を描いてもらったものが、襲撃を受けた各国に伝書鳩を使って配られていたのだが、その似顔絵に書かれている男の顔とこの肖像画の人物の顔がそっくりだったのだ。
これは何としてもこのエルクという男をここで捕らえて、色々聞き出す必要があるだろう。
部屋の隅に立てかけてあった、両手で扱うバスタードソードを構えて向かってくるエルクに対して、ジェクトとクレガーもそれぞれ自分の武器を構えた。




