336.潜入! 新興宗教
(あれがバーレンからやってきたって魔術剣士隊の副隊長、ジェクト・ルーデンか……)
その男は食事を終えたジェクトが立ち上がり、迷いなくどこかへと向かい出すのを見て自分もついていこうと決める。
バーレンの騎士団にいるはずの彼が、あのレイグラード使いのルギーレ絡みでここに呼ばれていることは自分も知っているので、彼の行動もしっかりと監視しておかなければならない。
その使命がある男はジェクトを追いかけて、結果的に今話題の新興宗教団体の元へとたどり着くことになってしまった。
そしてジェクトはちょっと様子を探るだけのはずだったのに、気がつけば地下に造られているその宗教のアジトへと足を踏み入れ、妙なことを吹き込まれそうになっている。
「それでは皆さん、はんにゃらみぃーや!!」
「はんにゃらみぃーや!!」
「は、はんにゃらみぃーや……」
奇妙な挨拶の言葉から始まった宗教の集会。
地下に造られた場所とはいえ、やはり最近力をつけてきているだけのことはあるらしく、その入信者も数多くやってきていた。
ざっと見渡しただけでも百人はゆうに超えており、男女関係なく年齢層もバラバラで、この宗教の布教活動の盛況ぶりがわかってしまうというものだった。
(宗教の名前はキャラーセリッシー教。まあ、名前は何でも適当に付けられるからそこは別にいいとしても、さっきの変な挨拶といい、このヘンテコな格好といい……宗教っていうものは俺には合わないかもな)
旅人の格好をしていたはずのジェクトは、今の自分の格好を見て苦笑いしてしまう。
首からは大きな丸い灰色の飾りが連なった輪っかを下げさせられ、灰色のローブを着せられ、腕には赤い腕章をつけられて、頭には同じく赤くて細い布を巻かれている。
この奇妙なコスチュームが、どうやらこのキャラーセリッシー教の正式な格好らしい。そして武器は全て没収されてしまっているので、荒事になったら素手で戦うか武器を取り戻すか他のを奪うかしなければならない。
だがそれよりも、肝心の宗教の内容と内情を調べ尽くさなければならない。
(今のところはまだ、特に目立った行動はしていない普通の宗教組織みたいだが……)
地下施設はどうやら廃墟となっていた商店の地下倉庫を改造して造られた場所らしく、所々に壁を掘り進めた痕跡が残っていたり、天井に補強がされていたりとかなり大掛かりな作業をしたようだ。
そしてその地下施設には空調設備が設置されており、暑さや寒さや湿気も関係なくなっている。
地下にしては妙にちょうどいい室温となっているのはそれが温度調整の役割を果たしていたからか、とジェクトは納得しながら祈りのポーズを捧げる。
この広い長方形の空間の一角で、両手を胸の前で組んで片膝を床につけ、天を見上げて目を閉じてから他の信者に合わせて口パクで祈りの言葉を言う。
しかし、それ以上にジェクトが気になったのはこの部屋の奥にまだ別の部屋があることだった。
(向こうにもまだ部屋がある。これは調べないわけにはいかないが……)
とは言っても、いきなりズカズカとあの部屋に踏み込めるはずもない。
いくら自分が騎士団の花形部署の中で副隊長を務めていて、腕に覚えがあったとしてもさすがにこの人数を相手にするのは、囲まれて袋叩きにされて全裸で放置されるのがオチだろう。
だったらどこかでタイミングを見計らって忍び込むか、コミュニケーションが苦手な自分の口の重さを少しでも軽くしてフレンドリーに行き、部屋の中を見せてもらうように事を運ぶか。
今回は体験入信ということで入ったわけだが、またここに来るとなると何か怪しい品物を買わされたり、自分がバーレンからやってきた騎士団の人間だということがバレてしまったりするかもしれないので、調べ尽くすならチャンスは今回限りしかないだろう。
(でも……どうやってやる?)
とりあえずこの宗教活動の終わりまでここにいて、それから何とかしよう。
そう考えていたジェクトだったが、そんな彼の横にスッと何者かが座ってきた。
「よう、あんたは新人か?」
「……?」
「おっと、こっち向くなよ。怪しまれるぞ」
その人間……声からすると男らしいが、自分と同じ格好をさせられているのにフード付きのマントをその上から被っていて、顔が良く見えない。
もしかするとこの宗教団体の一員かもしれない、とジェクトは身構えながら祈りを続けるが、フードの人物からは予想だにしていなかったセリフが出てきた。
「まあ、新人だよな。というかこんな所によく一人で踏み込もうと思うよな、バーレンのルーデン副隊長?」
「……!?」




