334.動けない外国人
「……それで、俺たちじゃなくてそのギルド長のデレクって人と新人騎士団員のシェオルって人が動くことになったんですか?」
「ええ、そうよ。私たちも流石にそこに関しての口出しはできなかったわ」
ルギーレたちのいる控え室にやってきたメリラは、ヴィーンラディで進められている話の顛末を伝える。
ここはヴィーンラディの中なので、誰が誰をどうやって動かすかはヴィーンラディに決定権がある。
それにまだ大きな被害がないとはいえ、シュアだって海賊の被害が出ているわけだし、あの戦闘機がいつやってくるかわからないのでここにいつまでもレフナスやアルバスがいるわけにもいかない。
そもそも、今回こちらに三人がやってきたのは第一と第二それぞれの副騎士団長を連れて帰るためだから、騎士団を派遣する状況にないのである。
「ドラゴンさんたちのことは聞いたわ。そりゃあ私たちだってできれば協力してあげたいけど、こっちも国の防衛があるから無理なのよ」
「いや、気持ちだけで今は十分ですよ」
シュアの立場を考えると、確かに動きたいのに動けないもどかしさが痛いほどわかるルギーレ。
しかし、シュアもシュアで簡単に引き下がろうとは最初から考えていなかった。
「でも、何かあれば私たちもすぐに動けるように準備だけはしておくわ。警備のために騎士団の配置を変えたり考えたりしなければならないから」
「ありがとうございます」
そしてシュアの五人は列車に乗って帰って行ったのだが、ルギーレとルディアとジェクトは引き続きこの王都から出てはならないと言われてしまった。
「王都の中を歩き回るのはいいけど、騎士団の監視が至る所にあるっていうから変なことはできそうにないな」
「何か考えているんですか?」
「いや、別にそんなことは考えていないが……」
妙なことを匂わせる口ぶりのジェクトに、ルギーレとルディアは訝しげな視線を送る。
だが騎士団の監視がついているとはいえ、むやみに城下町に出るのも危険だろう。
なぜなら、ルディアがヴェンラトースからハッキリ言われたようにこの国の騎士団と警備隊のほとんどは、彼女を恨んでいるからだった……。
そしてジェクトは話題を変える。
「あのヴェンラトースって男はルディアに対して騎士団長だって言っていたが……本当の立場はファルスのシャラードと同じく警備隊の総隊長だ」
「え? それじゃ私に言ったのは嘘……?」
「いや、厳密にいえば間違いではないだろう。騎士団も警備隊も国を護るという仕事は同じだからな。現にファルスのシャラードだって将軍という扱いだし」
その警備隊総隊長であるヴェンラトースに何かされたのか? とジェクトはルディアにストレートに聞いてみる。
だが、彼女よりも先に口を開いたのはルギーレだった。
「ちょ、ちょっとジェクトさん……ルディアの気持ちも少しは考えて……」
「何もされてないですよ?」
「え?」
「本当か?」
二人が見たものは、ルディアのキョトンとした表情だった。
彼女曰く、確かに自分だけあのヴェンラトースとともにいったん二人きりにされてしまったものの、彼も仕事があるらしいので一旦ルギーレたちと合流するように言われただけの話だった。
しかし、その警備隊総隊長を始めとして反予言者派の人間たちが大勢いるのは間違いないらしい。
「もし城下町に出て、反予言者派の人間たちに見つかった場合どうなるかわからないわけじゃないよな? ってニヤニヤされながら言われましたが……それは警告として受け取っておきました」
「紛らわしいんだよあのキザ野郎! ……じゃあ、とにかく城下町に出るのもやめておいた方がいいな」
「かと言って、ここにいるばかりでは事態が進展しそうにないしな」
うーんと腕を組んで悩むジェクトだが、自分の立場を思い出してこの方法を思いついた。
「……よし、なら俺だけ城下町に行ってこよう」
「え?」
「考えてみれば、お前はレイグラードの使い手であって重要な人物。そしてルディアはこの国にとって手放せない存在であるぐらいにもっと重要な人物。つまり気兼ねなく外に出て散策できるというのは俺だけだろう」
それにルディアをこの国から自由にしてやりたいと言い出したのはルギーレなのだから、そばにいてやれとジェクトはアドバイスする。
こうしてほぼ部外者であるジェクトが、この国の中にいるであろう反予言者派の情報を集めて回ることに決まった。




