330.予言者と騎士団長
シュアからレフナスやアルバスなどがやってくるのは百歩譲ってわからないでもないが、この二王国間の問題には関係なさそうなバーレンから一体誰がやってくるというのだろうか?
頭の中がこんがらがっているルディアに向かって、その人物の名前をヴェンラトースは口にする。
「魔術剣士隊の副隊長、ルーデンとか言ったかな」
「ルーデン……ああ、あの黄緑色の髪の毛をオールバックにしている、無口な性格の中年の副隊長さんですか。でもどうしてジェクトさんが?」
「今回の事件で使用された戦闘機とやらなんだが、それと似たような魔物とバーレンであなたたちが戦ったという話があっただろう。あれ絡みで各国に連絡を入れて、対策を練られそうな人物をよこしてもらうことにしたんだ」
ただし、皇都ネルディアを襲撃されておらず被害が比較的少なかったバーレンも、復興が必要な他の国に人員を派遣しているとのことで、さすがに大勢をヴィーンラディに派遣するのは難しいとの話だったのだ。
そこでお鉢が回って来たのが、ルギーレはルディアと一緒に列車に乗っていたことがあるジェクトだったのである。
色々と説明をするのにも、それから外交上の立場にしても上のクラスの人間が向かった方がいいだろうと皇帝のシェリスが判断したことによって、それこそ列車を使ってこっちに向かって来ているとの話だった。
「そこから先はどうなるかもわからないが、とりあえずバーレンのそのルーデンには残ってもらって、シュアの二人には国にお帰りいただくことになりそうだ」
「か、帰っちゃうんですか?」
「そうなるだろうな。確かに戦力としては必要なのかもしれないが、あなたたちは大事なことを忘れているだろう」
「大事なこと?」
「今、自分たちがいる国の名前を言ってみろ」
「ヴィ、ヴィーンラディ……王国です……あ!?」
そこでルディアは気がついた。
先ほどの話と一部被ってしまうものの、ここはシュアではなくてその隣の国だということを。
「ヒーヴォリーさんやバリスディさんとはずっと一緒に行動していたけど、二人ともシュアの人ですからここがすっかりヴィーンラディだということを忘れていました……」
「まさにそこだ。あなたたちの活躍はとても素晴らしいとは思うが、本来この国を守るのは俺たちヴィーンラディ王国騎士団の役目なんだ」
だから、いくら魔術関係の話でヴィーンラディとシュアの人間たちと仲がいいと言っても、騎士団がこんな大きな問題を放っておくわけにはいかないのだ。
しかも、ルディアはこの国で生まれ育った人間である上に一度この国から脱走してしまっているので、話を盛るだけ持って濡れ衣を着せることだってできなくはないのだ。
「シュアから騎士団員を引き連れて、ドラゴンを使役したこの国の予言者が帰ってきて国内で散々騒ぎを起こした。これだけではあなたたちがシュアと手を組んで反乱を企てたとも言えるだろうな」
「なんてことを考えるのかしら……」
騎士団長の口からは本来出て来そうにないようなそのセリフに、ギリッと歯軋りをしてヴェンラトースを睨みつけるルディア。
だが、その彼女の反抗的な目を見てもヴェンラトースは全く動じていなかったどころか、チッと舌打ちをしてルディアを睨み返して来た。
「ふん……王のお気に入りだか何だか知らないが、何が予言者だ。肝心な時に予言も当てられないで、挙げ句の果てに脱走までされてこっちは迷惑極まりない」
「何ですって? 何があったのよ?」
「そんなことはあなたに話す必要はない」
しかし、今の態度とセリフの内容から考えるとピンと来るものがルディアにはあったのだ。
何があったかを話してくれないなら、それはまた別の機会に聞き出すだけなのだが、ここでこれだけは聞いておきたかった。
「……じゃあ質問を変えましょう。あなたは……反予言者派の人間ですか?」
「そうだ」
ヴェンラトースの口から、迷いなくその答えがルディアの耳に音となって飛び込んできた。
この国に来てからの戦闘機や将軍たちとの戦いを別に考えるとすれば、まさかこんなに早く、そしてこんな形で自分を目の敵にしているという、反予言者派の人間と出会うことになってしまったなんて。
そして、今この部屋にはその予言者である自分と反予言者派のヴェンラトースが二人きりという状況。
それを理解して一気に緊張感が高まるルディアの顔を見て、ヴェンラトースはニヤリと笑った。




