329.帰ってきた予言者
「よし……話は大体わかったが、脱走したあなたにはまずそれなりの罰を受けてもらわなければならない」
「罰……?」
「そうだ。今はエスヴェテレスのディレーディ陛下の部下ということになっているのかもしれないが、元々は俺たちヴィーンラディに属していたのだから」
そのヴィーンラディにある彼女の存在は、当然ながら未だに消えていないのだとヴェンラトースは言う。
とりあえず今日は戦いも事情聴取も色々あって疲れているので、すっかり夜になってしまったのもあってこのまま与えられた部屋で眠ることにしたのだが、その部屋というのが……。
「まさかこんな部屋で一人ぼっちだなんて……」
部屋というよりも、そこは独房の中というのが正しかった。
ただしそれを感じるのはあくまでも雰囲気だけである。
部屋そのものは綺麗でベッドもふかふかしているし、床も壁も綺麗に磨かれているし、見た感じでは城の中にある来客用の部屋である。
しかし、その部屋の外には騎士団員が厳戒態勢で常駐している上に、普通だったらあっておかしくないものがこの部屋になかった。
(窓がない……)
そう、この部屋には窓が一つもないのである。
なので、天井からぶら下がっている豪華なシャンデリアが一日中点灯状態になっているのだ。
換気に関しては同じく天井に取り付けられている、魔力をエネルギーとする大型の換気口で行なわれている。
それによって窓がなくても新鮮な空気を取り入れることが可能なのだが、来客用の部屋であるはずのこの場所がどうして窓もないのだろうか?
(部屋の外に出るためには、絶対に一つしかないあそこのドアを通らなければならない。つまり事実上の脱走は不可能……ん?)
自分でそこまで考えて、ふとルディアは一つの予想に行き着いた。
まさか、ここは……。
(もしかしてここって、前の私と同じく予言をさせるために作られた部屋なんじゃあ!?)
その時、コンコンと部屋のドアがノックされる。
ルディアは肩を震わせて驚いたものの、出ないわけにはいかないので返事だけでもしておく。
「は、はい?」
「ヴェンラトースだ。入るぞ」
ドアを開けて入ってきたのは騎士団長だった。
彼の姿を見たルディアは、即座に色々な質問をぶつける。
「あっ、あの……ここって私しかいないんですけど、もしかしてまた予言をさせる気じゃあ……」
「ん? それはまだ決まっていない。だがこうしてこの国に戻ってきた以上、そうなる確率は高いだろうな」
「……やっぱり」
覚悟を決めて来たはずだったのに、いざこうして目の前に現実として現れた話を目の当たりにすると、どうしても言葉に詰まってテンションが低くなってしまう。
それを見て、腰に手を当てながらヴェンラトースはため息を吐いた。
「やっぱり……と言われても、こちらとしては脱走したあなたを捜し続けていたんだぞ。そしてこの国に厄介事を持ち込んで戻ってきたあなたが、この城からまた脱走できると思わない方がいいと思うがな?」
「私をどうするつもりなんですか……?」
「さあな。それは俺が決めることじゃないからな。あくまでも陛下が決められることなんだ」
だからその決定が出るまでここで大人しくしていろ、と言われるルディアだが、この城に来るまで一緒にいた他のメンバーたちの状況が気になってしまう。
「それはそうとして、ルギーレとかはどこに行ったんです?」
「ああ、あのレイグラード使いだったら今は陛下に謁見している。それも二人きりでだ」
「二人きり?」
そんな国王とルギーレが一対一で話し合いをするようなシチュエーションなんて、考えてみれば初めてのパターンだとルディアは驚きを隠せない。
ヴェンラトースが言うには、シュアと肩を並べるほどの魔術に秀でているこのヴィーンラディに、そんな大層な物を持ってきた以上は二人きりで話をしたい……と国王が言い出したらしい。
「まさかあなたたち、ルギーレまでこの国に閉じ込める気じゃあないでしょうね?」
「さあな、それも俺は知らん。さっきも言ったように決めるのは俺じゃなくて陛下だから、陛下からの言葉を待つしかないんだ」
「……」
いずれルディアの処遇も決まると言うのだが、それよりも大きな問題はシュアからやってきたヒーヴォリーとバリスディだったらしい。
シュアから事前に国王と騎士団には連絡が入っていたのだが、さすがにここまで大ごとにされてしまうと、やはり他国の人間がこうして自国の中で好き勝手されるのは見過ごせないらしいのだ。
「だから今、シュアからレフナス国王と護衛のメリラってのと、宰相のアルバスがこっちに向かって来ている」
「えっ!?」
「そんなに驚くようなことでもないだろう。向こうの国のトップにはちゃんと説明してもらわねばな。……ああそうそう、それとバーレンからも一人こっちに向かっているらしいんだ」
「え?」




