328.新たなる敵?
ようやくこれで全ての脅威を排除して、あばら家へと戻った二人と一匹だったが、そこには新たな脅威が待っていた。
「え……ちょ、ちょっとルギーレ、あれ!!」
「んー? えっ、何だあれ!?」
『わ、吾輩の家で何をしているんだあの連中は!?』
一行が驚くのも無理はなかった。
なぜなら、アサドールのあばら家が大勢の人間たちに包囲されてしまっていたからだ。
レイグラードの加護を受けているルギーレの視力よりも遠くまで見ることのできるアサドールが、それを目にしてスピードを上げた。
【今度は何者が吾輩の家に来ているのだ? まさかさっきのジェイデルとかいう男の部下じゃないだろうな?】
アサドールのその予想は結果的に外れることとなったが、軍の人間たちが来ているのには間違いなかった。
それは緑色の制服で統一されている格好の、ヴィーンラディ王国騎士団の人間たちだったからである。
「おおーい、何があったんですかぁ!?」
「あっ、戻ってきた……ちょっとすぐに降りてきてくれ。ヴィーンラディの騎士団が話があるらしいからな!」
アサドールの背中にまたがっている二人に向かって、大声でそう言うヒーヴォリーの言葉通り、待ち構えていたのは本来この国の治安を守るべき存在であるヴィーンラディ王国騎士団の面々だったのだ。
さすがにあれだけのドッグファイトを繰り広げたりしていれば、嫌でもどこかで騎士団に通報されるかもしれないと考えていたルギーレだったが、それが現実となったようである。
だが、そのルギーレ以上に緊張の色を隠せないのはルディアだった。
「騎士団の中にも反予言者派の人間が少なからず存在するわ。それを考えると怖くて仕方がないわよ……」
「心配するな。俺がエスコートして守ってやるから」
「う、うん……」
そう言われてもまだまだ何だか頼りない、というのがルギーレに対するルディアの評価だった。
そんな二人を乗せたまま着陸したアサドールを出迎えるヴィーンラディ王国騎士団の面々の中から、ピンク色の髪の毛を肩までかかりそうなぐらいに伸ばしたヘアスタイルをしている一人の男が歩み出てきた。
「さてと、色々と話を聞かせてもらわなければな」
「あの、あなたは……?」
「何だ、俺の顔を忘れたというのか? 勇者パーティー時代に一度陛下の前で謁見しただろう。なぁ、ルギーレ?」
どうやらこの男はルギーレのことを知っているようだが、あいにくルギーレは彼のことを覚えていなかった。
仕方がないので、もう一度自分の存在を頭に刻み込んでもらうべく男は自己紹介をする。
「俺はヴィーンラディ王国騎士団のヴェンラトース・ジルトラック。騎士団長を務めている」
「……何だか記憶があるようなないような……」
「そうか。だったらもういい……話が進まないからな」
とにかく王都まで来てもらわなければならないと言うヴェンラトースだが、その前になぜこの騎士団がここにいたのかという疑問がわいてくる。
しかし、それはすでに居残り組のヒーヴォリーとバリスディが聞き出していた。
ここにやってきたのはいつもの通りの魔物討伐だったのだが、今回はいつもより奥まで踏み込んで巣の一つや二つでも一気に壊滅させてしまおうということだったらしい。
なので騎士団長であるヴェンラトースが直々に出てきたのであるが、その過程で飛んでいく戦闘機を目撃したとのことであった。
「大体の話はこのシュアの騎士団員二人から聞かせてもらったが、お前たちからもきちんと事情を説明してもらわなければな。今までどこに行っていたのかとか、何をしていたのかとか」
それと、とヴェンラトースは一番大事な話を忘れないうちにしておく。
「どうして出て行ったはずのあなたがこうして戻ってきたのか……それもしっかりと説明してもらわなければなりませんよ。予言者のルディア様」
「……はい」
彼女はかつて、この国のシンボルであった。
それがある日突然、忽然と姿を消してしまった。もちろんヴィーンラディ王国は王国中を血眼になって探し回ったが、結局その行方をつかむことはできなかった。
それなのに、こうしてまたひょっこりと姿を見せたと思ったら緑と赤のドラゴンやシュア王国騎士団の人間たちを引き連れていたし、更には半壊したあばら家の中で簡単にまとめてある聖剣レイグラードを扱う男も一緒にいるという、なんとも理解しがたい状態になって戻ってきているではないか。
それだけは絶対に、このヴィーンラディに戻ってきた以上は全て洗いざらい話してもらわなければ気が済まないのは、今ここにいるヴェンラトースだけではなかったのである。




