327.新たなる敵(その3)
そして二人がジェイデルと戦うことになった。
一方のワイバーンはしぶとく生き残っているので、それをアサドールが必死に地面に押さえつけながらいろいろな植物のツタを使って拘束している。
こうなってしまうとアサドールの手助けは見込めないので、聖剣の使い手とこの国で最強の魔術師が手を組んで立ち向かう。
ワイバーンも、それを操っている乗り手のどちらもしぶとさだけはすごいなと思うルギーレだが、感心している場合ではなかった。
目の前には、自分の邪魔をされて怒り心頭の状態でハルバードを振りかざしてくるジェイデルの姿があったからだ。
「はああっ!!」
「ちっ!」
狙いを定めさせないように、二手に分かれて将軍を相手にする二人だが、やはり一国の将軍というだけあってどこか余裕が感じられる戦い方である。
今のところは互角に見えるが、まだジェイデルは本気を出しておらず二人の戦い方を分析しているらしい。
本来であれば、自慢のハルバードを武器に豪快に突っ込んでいくタイプなのだが、積極的に前線へと出て来るはずの彼がこうして様子を窺うようにして戦うのはキチンとした理由があった。
(相手はあの聖剣レイグラードの使い手と、ヴィーンラディで最強の魔術師と言われているほどの実力を持っている女だからな……)
だからこそ、どうしても積極的に攻め切れるわけがなかった。
ニルスやウィタカー、マリユスたちからこの二人に関する話を色々と聞いていたとはいえ、こうして実際に対峙して戦うのは初めてだからである。
二人の動きを見る限りでは、レイグラードの使い手の方がやや戦いに慣れていそうな足の動かし方や雰囲気を醸し出しているものの、戦士としてのポテンシャルは大したことがなさそうだった。
だが、やはり気になるのはレイグラードと魔術師の魔術である。
(レイグラードは盗んでも盗んでも勝手に持ち主の元に返ってしまうという不思議な剣……それほどまでに彼が認められているということか!)
頭の中で分析を終えたジェイデルは、まずルディアによる魔術での攻撃や妨害を取り除くべく彼女から始末してしまおうと決意する。
しかし、彼女はアサドールのあばら家に入ってリュドが目覚めるまでの間に、その家主から色々と魔術に関することを教えてもらったり、試作品ではあるもののある物をもらったりしていた。
それを、自分に近づいてくるジェイデルに向かって思いっきり投げつける。
「子供騙しか!」
その投げつけられた、手のひらサイズの黄色いボールはジェイデルのハルバードによって簡単に弾かれてしまった。
しかし、ルディアの本当の狙いはそうではなかった。
そもそもジェイデルにそのボールを当てることが目的ではなく、ボールが地面に叩きつけられたせいで発せられるものが目的だったのだ。
弾かれたボールが地面に叩きつけられたその瞬間、かなり強い耳鳴りのような音がキィィィィィと不快感を伴って三人に襲いかかった。
「うわっ!?」
いきなり襲ってきた予期せぬ不快な音に、思わずジェイデルは動きを止めて耳を塞ぐしかできない。
そうなってしまえば、ルギーレはともかく戦いに不慣れなルディアですら殺せると言えるだけの大きな隙がジェイデルにできてしまった。
もちろんそれを見逃すはずもなかったルギーレが、不快音の中で耳を塞ぐことしかできないジェイデルの、前屈みになっているその背中にレイグラードを両手で突き立てた。
「ぐっ!?」
「子供騙しなんかじゃねえんだよ、将軍さんよぉ……!!」
レイグラードはジェイデルの背中から心臓を貫通し、それが引き抜かれた瞬間、旧ラーフィティアの将軍は無言のまま前のめりに地面にくずおれて突っ伏してしまった。
なんともあっけない終わり方だったが、これでも勝ちは勝ちだとルギーレもルディアも納得していた。
しかし、今しがた絶命したジェイデルが耳を塞いで身動きが取れないレベルの不快音が辺りに響いていたはずなのに、ルギーレもルディアも平然としていたのだろうか?
その答えは二人の耳の中にあった。
「やったわね、ルギーレ」
「ああ。でも俺だけの功績じゃないさ。アサドールさんがくれたこの耳栓がなかったら、俺たちも不快な音にやられちまってたぜ」
アサドールが黄色いボールとセットでくれたのが、その不快な音「だけ」を遮断する特製の耳栓であった。
それがあったからこそ先ほどのジェイデルの声も聞こえていたし、不快音の中ででも自由に動き回ることが可能だったという結末だった。
そしてその開発者であるアサドールは、最終的に何本もの太いツタでワイバーンを拘束し、地面から太い木の杭を複数突き出して、それによって身動きの取れないワイバーンを串刺しにして勝利していた。




