326.新たなる敵(その2)
結論から言えば、襲い掛かってくる一国の将軍を相手にして、ルギーレとルディアは二人だけで戦わなければならなくなってしまった。
アサドールはどうしていたのかというと、ワイバーンを相手にして空中で戦いを繰り広げているのだが、ジェイデルの操るそのワイバーンの動きがなかなかスピーディーでトリッキーなので捕まえられずにいた。
七匹のドラゴンたちの中で一番気が短いその性格が災いし、ヒョイヒョイと体当たりや前足の爪によるひっかきなどの攻撃をかわされればかわされるだけ、頭に血が上ってますます狙いが定まらなくなっている。
(植物のツタで何とかならないのかしら……?)
自分でそういう拘束系の術も使えると言っていたのに、どうして使ってくれないのだろうか?
それはジェイデルが操っているワイバーンとの位置に関係があった。
【こう空を飛ばれてしまっては、吾輩の魔術も役に立たんな……】
植物のツタを伸ばせるのは限界がある。
あくまでもその植物本来が持っている魔力の量によって、伸ばせる長さが決まってしまうのでどうしても使える場面と使えない場面が出てくる。
特にグラルバルトが好きな砂漠だったり、ルギーレとルディアが戦ったような岩ばかりの洞窟などでは植物とかけ離れている場所なので、そうしたシチュエーションをアサドールは好まない。
逆に言えば、例えば城の庭に一本でも大きな木が生えていれば、その木を使って城の壁や天井などをぶち抜いて破壊することだってできる。
本来は空をテリトリーとしているドラゴンのはずなのに、アサドールは空にいるのが余り好きではないのだ。
【こいつを地上に下ろせればいいんだが……】
そもそも、ワイバーンの背中に乗っているジェイデルこそが本来のターゲットなので、今の段階ではルギーレもルディアも地上で待機せざるを得ない状況になってしまっている。
だったらこのワイバーンを地上に向かわせるのが自分の役目だと判断して、アサドールは自分の間合いで戦う。
二足歩行のワイバーンに対して、四足歩行のドラゴンは胴体が大きく尻尾も長いので、アサドールはその尻尾を豪快に振り回してワイバーンを牽制する。
自分が大の苦手とする接近戦をなるべくしないように、一定の距離からチマチマと攻撃を繰り出しつつ、たまに魔術を繰り出してみる。
その上で体当たりなどをかましてみれば、ワイバーンの方も少しずつフラストレーションが溜まってくるというものだった。
『グルルルゥ……』
「おい、落ち着いてくれ! 向こうのペースに乗せられるな!」
長年の相棒とはいえ、人間とワイバーンではストレスへの耐性や敵に対しての感情の捉え方などが全然違ってくるものである。
そもそもワイバーンは、自分よりも高い位置を飛ぶ生物を許さない魔物である。
それは例え、相手が伝説のドラゴンの一匹であっても同じことだった。
『グガアアアアアッ!!』
「ぬおっ!?」
先にキレてしまったのはワイバーンの方だった。
もうすぐで昼になろうかというこの時間の空に、ワイバーンの怒声が響き渡った。
気が短いアサドールよりも更に気が短いワイバーンが、アサドールに向かって突進してきた。
しかしそれを待っていたアサドールは一気に冷静になり、ふっと身体の力を抜いて一気に急降下し始める。
「この……やめ、止まらんか!!」
相棒の暴走に対処し切れていないジェイデルを乗せたままのワイバーンが、急降下していくアサドールを追いかけて同じく降下していく。
その様子は地上で待機しているルギーレとルディアにもわかった。
「お、落ちてくるぞ!!」
「逃げるわよ!」
ルディアの判断に従い、アサドールが一気に落ちてくる地点から駆け出すルギーレ。
そしてその数秒後、ドンッと地鳴りを起こしてアサドールが着地……したのではなく、地面スレスレのところで宙返りを繰り出したアサドールが、自分を追ってきていたワイバーンの上に回り込むことに成功したのだった。
そうなってしまえば、あとはワイバーンよりも大きな胴体を武器にして地面へとワイバーンを叩きつけるだけだった。
「ぬおっ!!」
ワイバーンの背中に乗っていたジェイデルは、地面に叩きつけられる前に運良く放り出されて大した怪我を負わずに済んだ。
放り出された先が木の上だったので、その枝や葉がクッションとなって生き延びたのだが、まだ戦いは終わっていない。
なぜなら彼の落下したすぐそばに、ルギーレとルディアの姿があったからだった。




