322.自白剤
「う、うう……ん!?」
『あ、起きたぞ!!』
「あーよかったぜ……」
リュドが目を覚ますと、自分の目の前にあの役立たずを始めとした複数の人間たちの姿があることに気がついた。
どこかの見慣れぬあばら家か何かに運び込まれて治療を受けたらしく、包帯が身体に巻かれている。
そして彼女が回復したことを喜ぶルギーレだが、それは決して歓迎の意味で使われた言葉ではなかった。
「お前にここで死なれちまったら、俺たちが知りたい情報が手に入らないままだったからな」
「私をどうするつもり……?」
目覚めたばかりだが、すぐに起き上がってこの連中を全員撃ち殺してここから逃げ出してやる。
そう考えたリュドだったが、頼みの綱である拳銃は奪われてしまっている状況だし、そもそも寝ているベッドの頭にある柱に両腕をロープで括り付けられて縛られているので、満足に身動きも取れない状況だ。
しかもそのロープを魔術で燃やして脱出しようにも、なぜかわからないが魔術が発動しない状況にされていた。
そしてそのリュドの疑問には、同じ女であるルディアが答える。
「どうするって……ルギーレが今言った通りよ。あなたから色々と情報を聞き出さなければならないわ」
「あなたたちに喋ることなんて何もないわよ。わかったならさっさと私を解放しなさい」
リュドは圧倒的に自分が不利な状況にいるはずなのに、まだこれだけの生意気な口を叩けるだけの余裕がある。
そう判断したルギーレたちは目を見合わせて頷くと、ここからはアサドールに任せることにした。
『残念だな。お主が素直に情報を吐いてくれるのであれば吾輩たちも手荒な真似はしないつもりだったんだが、そんな反抗的な態度を取られてしまっては仕方がない』
そう言いながら、リュドが起きるまでの間に彼女の反応を見てどうするかをシミュレーションしていた一行の決定に基づき、彼は手に持った注射器を彼女の腕に近づける。
「ちょ……ちょっと、何するのよ!? まさか毒とか……」
『違う。だが、場合によってはお主への毒になる可能性があるな』
そう言いながら彼女の左腕の血管を見つけ、そこに迷いなく注射器の針を刺すアサドール。
様々な薬品の研究開発も行なっている、彼の自宅であり研究場所でもあるこの場所で、ずっと昔に開発した自白剤が投与される。
ただし、この自白剤は普通のものではない。
『自白剤っていうのは打った人間にリラックス状態を作り出すものでな。その状態で口が軽くなるようにして、自白を強要するものなんだ。それが自白剤なんだが……吾輩の開発したこの自白剤は刺激が強いぞ』
リュドがまだ目を覚まさないうちに、彼女がもともと無口でコミュニケーション能力がそんなに高くないのに、それでよく情報屋ができてたよなあというルギーレの思い出を聞いていたアサドールは、彼女がすぐに自白できるようにキツめのものを打つことにしたのだ。
それを投与された彼女は、ふと自分の身体に違和感を覚える。
「……ん?」
『効いてきたかな? これって結構即効性なんだ』
「か……かゆい! かゆいかゆい!!」
全身が堪え切れないほどのかゆみに襲われる。
痛みや痺れなどは、今までの冒険の中で負ってきた数々の傷や魔術などで経験済みである。
それは彼女ほど経験が少ないにせよルギーレも同じだったので、だったら別の種類の苦しみを与えてやろうと画策したのだ。
「なるほどなあ、痛みや痺れなどは耐性がついているとしても、戦っている中でかゆみを感じることは余りなさそうだな」
「それに一度かゆみ出すと気になって仕方がないし、すぐにでも逃れたい身体の違和感のうちの一つだからな」
バリスディとヒーヴォリーの二人がそう言っているうちに、全身に回ったかゆみは強さを増していた。
リュドはとてつもないかゆみに涙まで流し始める。
「かゆい……うう、気持ち悪い……」
『自白剤の効果を消す薬なら、こっちの注射器に入っているが?』
「ふ、ふざけないでよ……誰が話すもんですか……ああかゆいかゆい!」
もはや我慢比べの様相を呈している状況だが、そこでルディアが次の一手を繰り出した。
かゆみに悶えているリュドの太ももに、爪で痛みを与えてかゆみを消してやる。
もちろんすぐにそのかゆみは復活するわけだが、今のリュドにとっては幸せの一撃でもあった。
「ああっ! も、もっとやって!」
「ふふふ、気持ちいいかしら?」
「き、気持ちいいっ! 気持ちいいいいいっ!」
だが、リュドの身体をかくのをここでルディアはストップする。
「ああん、やめないでえ!」
「なら話すかしら?」
「い、言わない!」
「じゃあもう一丁……ほら!」
「きゃああん! やだ、もっと、ああああん!!」
そんな女二人のやり取りによって、ついにリュドが陥落した。




