321.地下の出会い
「っ!?」
「あっ、あれぇ!?」
「あ、あんたたちは……!?」
ここでようやく、尾行していた二人が尾行されていた三人と顔を合わせる時がやってきた。
ただし尾行していた二人は、ウィタカーたちに尾行していたことは言わずあくまでここに最初からいたかのような口振りで話し始める。
「何でお前たちがここにいるのかわからないが、まずはあれが何なのかを教えてやろう」
「だからあなたたちも、私たちにどうしてここにいるのかを後でちゃんと教えてくださいね」
本当は知っていますけど、と心の中で付け加えながらそうお願いしてくるオーレンに、ウィタカーたちはこうなってしまった以上ごまかしても無駄だということでまずはヴァンリドの説明を聞くことにする。
「あの金属製の筒の名前は「ミサイル」というものでな。一言でいえば大量破壊兵器だ」
「大量破壊兵器……?」
「そうだ。内部に大量の魔力エネルギーを詰め込んだ物体が入っているんだが、それを積んで空へと飛ばす。そしてそれを着弾させて大爆発を起こし、一瞬にして目標を焦土にすることができる優れた代物だ」
そんな大量破壊兵器をいくつも造ったとして、これからどうするのか?
そのトークスからの疑問の答えは実にシンプルだった。
「決まっているだろう? お前たちは私たちと同じく、この世界を征服することを考えている。それを手軽にするための兵器だ」
「ほう……そりゃあおもしれーな。でもどうして、最初からあれを使って攻撃しなかったんだよ?」
今までチマチマと色々な兵器を生み出しては、それを撃破されて損害が出てしまっているわけだし、人間たちだって自分たちのメンバーを含めて多数の犠牲者が出ている。
その今までのことを反省するのは避けては通れない問題だろう、とヴァレルが言うが、そこについてはオーレンから話があった。
「それは実験のためですよ」
「実験だぁ?」
「ええ。今まで数々の兵器を生み出してきましたが、それはどれだけの戦力が向こうにあるのかということを探るためでした。だから必ずしも、今までの失敗がすべて無駄なものになったとはニルス様も思ってはいないんですよ」
「おい、それで俺たちはすでに三人の大事な仲間を失っているんだがな?」
そのオーレンの言い方にカチンと来てしまったウィタカーが、右手で彼の胸ぐらをつかみ上げる。
しかし、オーレンは胸ぐらをつかまれたままでも冷静だった。
「落ち着きましょう。犠牲が出てしまったのは確かに喜ばしいことではありませんし、同情します。ですが世界征服をするという目的そのものは、あなたたちの中にもまだ残っているのでしょう?」
「……まぁ、そりゃそうだが」
「でしたら、その世界征服もやりやすくなるんですからここもしっかり見て回りましょうよ」
実は私たちもここに来たのは初めてなんですけどね、とオーレンが付け加えてから、自分たちはニルスの案内があってここまでやってきたことを説明する。
「私たちは、ニルス様の考えているこれからの計画を知るためにワイバーンでここまでやって来ました。ミサイルというものや、この地下にある黒いドラゴンの話についてもすでに話を伺いました。あなたたちはそれを見ましたか?」
「……ああ。俺たちはさっきそれを見てきた」
「じゃあお前らはどこから侵入してきた? 今まで私たちの元から姿を消していて、不審な行動をしていたんじゃないだろうな? それをしっかりと教えてもらうぞ」
かなり追い詰められているのはバーサークグラップルの三人だが、ここで上手く話をごまかせる自信もなかったので、ウィタカーが自分たちの事情を説明する。
「……ってわけだけど、俺たちはまだあんたたちの仲間だ」
「へえ、なるほどな。お前たちがニルス様を裏切ろうとしていたって話は本当だったのか」
「でも、今の話を聞いて気が変わった。やっぱり俺たちはあんたたちに協力するぜ」
「は!?」
オーレンの胸ぐらから手を離したそのウィタカーのセリフにヴァレルが反応したが、それをトークスが左手で抑える。
彼はすでに、ウィタカーのやろうとしていることを察していた。
そしてオーレンとヴァンリドはその三人の様子を見て、一緒にこの地下にある研究所の中を案内することにした。
(今はまだ、俺たちを上手く手懐けたと気取るがいいさ。けどな、俺たちが完全にお前たちの軍門に下ったと思われちゃあ困るぜ)
そう、これはあくまでもポーズなのだ。
よく考えたら、真っ向からぶつかり合わなくてもあのニルスを出し抜く方法なんていくらでもあるわけで。
そのドス黒い思いを胸の内に秘めながら、彼は今はまだ大人しくついていくことを決めた。




