317.迎えに来た人物
その通信からおよそ十分後、バサバサと翼をはためかせて一匹のワイバーンがやってきた。
それに乗っているのは、余り面識こそないものの二人の仲間には間違いない中年の男だった。
「待たせたな。……にしても、この辺り一帯が焦げ臭くなっているのが気になるんだが」
「理由はさっき話した通りよ。あの役立たずが味方につけているドラゴンは相当厄介な存在ね」
「それはあんたたちもわかる時が来るだろう、ヴォレナーク将軍」
ヴォレナーク将軍と呼ばれたその人物は、旧ラーフィティアの人物の一人であり十二の騎士団を率いている人物……ジェイデルであった。
ラーフィティアでは負けてしまったものの、運良くこうして生き延びている彼はこうしてニルスたちに協力しながら、虎視眈々とラーフィティア奪還に向けて戦闘機の開発にも携わってきた。
「だが……ニルス様にはどう説明するんだ?」
「もうありのままを話してしまおうと思ってね。それしかないって」
「ふぅん、なるほどな。まあそれはそれでいいとして、そこから先が問題だな」
十二の騎士団もだいぶ数を減らされてしまった今、動かせる軍勢には限りがある。
この二人に協力するのはできることならばごめん被りたいと考えているジェイデルだったが、現実はそうそう甘くなかった。
「……一斉捜索ですか?」
「もうそれしかないよね。連帯責任だよ連帯責任。君たちは失敗したんだからちゃんとやってもらわないとね」
ワイバーンに乗って三人がたどり着いたニルスの居所。
そこでニルスは当たり前のように、ジェイデルの軍を動かすように要請してきた。
今でも結構厳しいのだが、さらに人員を動かさなければならないとなればそれ以上に厳しくなるのは当然である。
「いや、結構厳しいですよ」
「だからその厳しさを少しでも緩和するために、私の方でも手助けになりそうな情報を集めておいた」
「え?」
それがあるんだったら早く出せよ、と言いたげな三人の目の前で、ニルスは鳥に偽装した監視装置からゲットしたルギーレたちの現状を話し始める。
「向こうは伝説のドラゴンを味方につけているから、なかなか侮れない存在だと言える。今回の失敗した件に関しては、戦闘機を壊されてしまったことに関しては私は別にそこまで怒っていない。むしろ頭にきているのは、なぜ向こうを仕留めるのにそんなに時間がかかるのかと言うことだ」
なので、今の段階でチマチマと進めている新兵器の量産をスピードアップさせることを決意するニルス。
「いくらドラゴンが相手だからといっても、こっちの銃が効くということもわかったんだし、量産態勢はすでに整っているからまずは銃からだ。それから次に生物兵器、強化人間。戦闘機はまだまだ改良が必要そうだからそれは最後だ」
ラーフィティアやシュアの襲撃を確実なものにするためには、こちらの手元にある戦力を付け焼き刃程度でもいいからまずは大幅に揃えることである。
そして一気に攻め立てるしかない。
伝説のドラゴンが向こうの戦力としてついてしまっているのなら、こっちは自分たちが開発した最先端の技術で対抗するしかないからだ。
裏世界の住人たちはその新兵器を高く買い取ってくれることもあって、まだ資金面に関しては余裕があるのだが、流石に戦闘機を何度も壊されるようなことがあればそれも次第に底をつくこととなるだろう。
なので、まずはバックアップ体制をきちんと整えてからにしようと思い直したニルスは、戻ってきたこの三人にそう動くように指示を出した。
そして、三人が部屋を出ていったのを見たニルスの元に魔術通信が入った。
「はい、私です」
『私です、オーレンです』
「ああ、オーレン宰相……いかがいたしました?」
裏切り者と思わしきウィタカーを、先ほどのジェイデル、今こうして通信をしている旧ラーフィティア宰相のオーレン、そして国王のヴァンリドの三人にさせていた。
しかしジェイデルがマリユスとベティーナを迎えに行ってしまったため、残る二人でウィタカーたちを尾行してもらっていたのだ。
どうやら、ウィタカーたちの方にキナ臭い動きがあったようである。
『バーサークの三人ですが、エスヴェテレス帝国で最初にレイグラードが見つかったというあの遺跡に向かっています』
「遺跡?」
『遺跡と言いますか、神殿と言いますか……まあ古いから遺跡としましょうか。なぜかそこに向かっているので、我々も引き続き尾行をします』
「わかった。何かあればすぐに報告するように。くれぐれも気が付かれないようにな」
『心得ております』
通信を切ったニルスは、腕を組んで考え込む。
(どうして今さらあの遺跡に?)
何か目的があることは間違いなさそうだが、それはこれからのオーレンたちの報告を待つべきであろう。
そして、そのオーレンとヴァンリドに尾行されている三人は遺跡の地下で思わぬものを発見することとなった。




