315.逃がさない
左肩から斜めに斬られたリュドは、そのままよろけて地面に倒れ伏した。
もはや虫の息となってしまっているので、これでは助からないだろうと判断したルギーレは、彼女に構うよりもまずはここまでついてきてくれたヒーヴォリーの救出に向かう。
「大丈夫ですか!?」
「う、ぐっ……大丈夫、です。回復魔術でなんとか……あいててててて!!」
「ならないでしょ! ちょっと待ってください、今から止血して……」
銃というものの原理がどうなっているかはわからないルギーレだが、弓を使うよりも超強力なダメージを与えられる遠距離用の武器だというのは、今までの流れの中で理解できた。
だが、味方にそのダメージの大きさがある攻撃をされてしまうとすぐにでも処置をしなければまずいだろう。
ルギーレはとにかく止血を最優先に考え、はめている黒い革手袋や黄色いコートがヒーヴォリーの血で汚れるのも気にせずに治療にあたる。
だが、そんな彼の肩に何者かの手が置かれた。
「後は私に任せて、あなたはマリユスとベティーナを追いかけて!!」
「え……ルディア!? 大丈夫なのか!?」
「大丈夫! エルヴェダーさんとアサドールさんの銃弾は取り出したから、今度はヒーヴォリーさんのを取り出すわ。それよりもバリスディさんがマリユスに負けちゃって、今そのアサドールさんが治療しているわ」
だから治療は自分たちに任せて、とルディアがそこまで言った時だった。
最初にここに来た時に、マリユスとベティーナを見つけた森の広場の方からヒュイイイインと聞き慣れない音が聞こえてきた。
それをしっかりと耳で捉えたルギーレは、それが戦闘機の音であることに気がついた。
「くそっ、あいつら逃げる気か!?」
「だから早く追いかけて! エルヴェダーさんが乗せていってくれるわ!」
「わかった!!」
やっぱりマリユスの相手をバリスディ一人に任せたのは失敗だったかもしれないが、かといってこっちに加勢に来なければヒーヴォリーが殺されていただろうと考えてしまうルギーレは、一目散に広場に向かって駆け出した。
するとその広場にはすでに、本来のドラゴンの姿に戻ったエルヴェダーの姿があった。
『おい、あいつら逃げちまったから早く追うぞ!!』
「わかってますよ!!」
当然だとルギーレもそのエルヴェダーの背中に乗り、空に向かって飛び立つ。
少し前方には、後ろから炎を吹き出しながら飛んでいく金属製の鳥の姿があった。
「あいつと戦ったんですよね!?」
『ああそうだ! あいつはめちゃくちゃ強いぜ! 特に俺様を追いかけていた筒状の弾丸に気をつけなきゃな。あれを撃たれでもしたら追い掛け回されて、そのままどこかにぶつかるか海に墜落するまで終わらねえからな!!』
それに追い掛け回されたのが一種のトラウマになってしまっているエルヴェダーだが、だからと言ってここまで追い詰めたのだから逃がすわけにはいかないのだ。
ルギーレも、せっかくあのリュドを不意打ちとはいえ倒すことに成功した以上は、ここであいつらを逃がしたら今度こそシュア王国に向かわれてしまうと考えていた。
「エルヴェダーさん、前方に回り込めませんか!?」
『今のままじゃ無理だ! スピードは向こうの方が速いんだよ!』
だからこうしてやるぜと言いながら、エルヴェダーはドラゴンの姿でブツブツと何やら呪文を唱え始めた。
そしてその呪文が終わったと思った次の瞬間、天が明るく輝いたかと思うと、なんとそこから炎を纏った状態の隕石が落ちてきた!
それも一つだけではなく、複数である。
「な、なななななっ!?」
『フレイムメテオ!!』
天空から降り注ぐ隕石が、目の前を逃げていく金属製の鳥に向かって無数に降り注ぐ。
それを必死にコントロールしながら避け続けるマリユスとベティーナだが、さすがにこの量では全てを避けきることはできない。
結果、その避けきれなかった隕石の一つが左の翼にぶつかったのをきっかけに、胴体にぶつかり右の翼にぶつかり、浮力を失ってそのままよろよろと地面に墜落していってしまった。
『よっしゃ、やったぜ!』
「すげえ……これが伝説のドラゴンの力……でもどうして最初からこれを使わなかったんですか?」
こんな凄い技があるんだったら、一回目に追い掛け回される前にそれを使えばいいのにと思うルギーレに対し、エルヴェダーの回答はこうだった。
『あの時は未知の物体相手にそこまで頭が回らなかったんだよ。悪いな』
「あ、そうですか……」
とにもかくにも、これでマリユスとベティーナも終わりだ。
そのまま墜落していく金属製の鳥を追いかけて、ルギーレとエルヴェダーもその近くに降り立った。




