314.奇襲作戦の結末
接近戦が得意なバリスディは、ルギーレとともにマリユスとベティーナの二人と戦おうと思ったのだが、マリユスはベティーナを戦闘機のある方に逃した。
「後は仕上げて直すだけだから、そっちは任せる」
「わかったわ!」
彼女もまたマリユスのことを信頼しているだけあって、二人相手でも彼の勝ちを確信しながら戦闘機の修理に戻っていった。
そしてリュドからの不意打ちに倒れてしまったエルヴェダーとアサドールの二人に対しては、ルディアが懸命に回復魔術をかけていた。
「お願い、死なないでください!」
『はは……俺様たちがこんな傷で死ぬわけねえじゃ……がはっ、ねえかよ!』
『そうだぞ……吾輩たちは伝説のドラゴンなんだから、自分でも治療できる……』
しかし、両者の強気なセリフとは対照的に顔色が悪い。
とりあえず、まずは撃たれてしまった結果として血が流れているのだから、中に食い込んでいる銃弾を取り出さなければならないとアサドールが言う。
『手を突っ込んで取ってくれないか……』
「い、痛いですよ!?」
『このまま放置していた方がもっと痛い。頼む。指突っ込んで取ってくれ……』
「……わかりました!」
このまま出血が続けば、いくら伝説のドラゴンといえども命が危ない。
ルディアは意を決して、まずは撃たれた回数が少ないエルヴェダーの銃弾から取り出すことにする。
「じゃあ……行きますよ」
『頼むぜ……』
次の瞬間、森の中にこの世のものとは思えない叫び声が響き渡った。
それを後ろに聞きながら、ベティーナは黙々と戦闘機の修理に精を出していた。
(まさかドラゴンに邪魔されるなんてね。しかも戦闘機の時だけじゃなくて今回も!?)
先ほど、ニルスから魔術通信が来た時は驚きを隠せなかった。
まさかあの役立たずが、伝説のドラゴンを二匹も仲間に加えていたなんて。
しかしそれも、ニルスが開発した銃という画期的な武器によって恐るるに足らずという結果となった。
(でも、戦闘機を傷つけられたせいでシュアに乗り込む計画に遅れが出てしまったわ!)
予期せぬ空中のドッグファイトにより、この戦闘機の能力を試すべくシュアの王都コーニエルを破壊しつくすという計画は少し先延ばしになってしまった。
ともかくエンジンを始めとして各部にトラブルが出てしまっているので、そこを全て直さなければ安心して飛べもしなかった。
そして、安心できないのはヒーヴォリーと戦っているリュドもそうである。
(単純にテクニックだけでいえば向こうの方が上……)
銃という、弓と違って残りの矢の本数を気にせずに攻撃できるこの武器はまさに画期的なものである。
だが、それを持っているリュドは決してこの戦いが楽に終わるとは思っていない。
むしろ、気を抜いたらこっちがやられてしまうという緊張感が全身を包み込んでいるのがわかった。
唯一、勇者パーティーの中でBランクの冒険者だけあってこうした戦いのシチュエーションにおいては、ルギーレ以外のメンバーには一歩劣っているのを自覚していた。
ただし、彼女は情報屋をもともと生業としていただけあって今こうして戦っている相手の情報もすでにわかっている。
(シュアの第一騎士団の副騎士団長ヒーヴォリー。弓使いとしてはシュアの騎士団の中でも右に並ぶ者がいないと言われるぐらいの腕前。その情報は間違っていないようね)
その証拠に、こうして視界を遮る木が多い上に夜という最悪のコンディションのの中でも、キッチリと矢を当てようとしてくるのがわかる。
対するリュドは両親含めて魔術師なのだが、この銃と併用することによってそのヒーヴォリーを仕留めることができると踏んでいた。
(シュア随一の弓使いだけあって、無闇に突っ込んでくるタイプの人間じゃないわね。でも、こっちはその弓よりも速い攻撃を繰り出せるのよ)
まずは魔術のウィンドカッターを繰り出し、ヒーヴォリーの視界を落ち葉を巻き上げて奪う。
そしてしゃがみつつ、彼の膝を狙撃することに成功した。
「ぐあっ!?」
(もう一発!)
「ぐふあ!!」
続けてヒーヴォリーの脇腹も狙撃に成功したリュドだったが、彼女はこの時狙撃を成功した嬉しさであることを忘れていた。
ふと背中の方に気配を感じた彼女は振り向く。
するとそこには、すでにレイグラードを振り下ろしているルギーレの姿があったのだった。
「うおらああっ!!」
「がはっ……!」
奇襲作戦に奇襲作戦で返されたなら、さらに奇襲作戦をすればいい。
そんなシンプルな作戦を立てたルギーレは、マリユスの対応を一旦バリスディに任せて、こうして奇襲作戦でリュドに接近していたのだった。




