311.ハンナン地方にて
少なくとも、ハンナン地方で遭遇した魔物はこんなに徒党を組んでくるような感じではなかったと回想するヒーヴォリー。
それを自分が乗っているエルヴェダーに言ってみると、彼もまた同じ気持ちを心に抱えていたらしい。
『確かになあ。ちょっと動きが不自然っていうかよぉ、魔物たちの動き』
「やはりそう思われますか?」
『思うねえ。そもそも俺様たちドラゴンだってお前ら人間から見たら魔物だろ? 魔物ってのはそれぞれにちゃんとしたテリトリーってのを持っているわけでよ』
そのテリトリーを荒らすものは容赦しない。
それは人間から見た魔物がそうであるように、魔物から見た人間も同じことである。
『だから基本的に魔物は徒党を組むことなんかねえのよ。俺様たちドラゴンだって似たような存在のワイバーンたちとは似て非なる存在だからよぉ、ワイバーンの野郎どもにテリトリー荒らされたくねえわけ』
「それはまあ、なんとなくわかるような気がします」
『わかってくれてうれしいぜ。でも、今こうして戦っている魔物って色々なのがいるだろ。クモ系統だったり、トカゲ系統だったりハチとか……それからスケルトン系統もいるわな』
上から見えるだけでもバラバラのジャンルの魔物たちが、こうして一か所に固まっているのは普通はありえないことである。
「こんなに統一感のない魔物たちの集結は初めて見ましたよ。私も騎士団に在籍してあちこちの戦場を回ってきたつもりですが、こういう状況は初めてですね」
『俺様は長いこと生きてきている中で、何度か見たことはあるな。そういう場合は例えば天変地異が起こったとか、そういう時に一時的に同じ場所に集まるみたいな感じだったな』
だが、そんな状況でもないのにこうして一か所に違うジャンルの魔物たちが集結するのは、ハッキリ言って初めてだと思ってしまうエルヴェダー。
恐らく、この魔物たちを操っている何者かがいるのだろうとしか思えないらしい。
「とにかく、まずはその魔物たちを一掃しなければいけないですね……」
『よし、小型はあらかた倒したから後は大型だけだな』
ドラゴンの二匹も大型なので、地上にいる何匹かの大型魔物には空中からの体当たりをかましてダメージを与える。
そこでよろけたところにルディアが魔術をぶつけたり、地上からルギーレがレイグラードでダメージを与えたりしているのだ。
斧使いのバリスディは小型や中型の魔物を主に担当し、ようやくその数も減ってきている。
「はぁ、はぁ、はぁ……後は大型だけですね……」
「そうだな。でも大型ってのは俺たち騎士団でも厄介な奴らばっかりだぜ……」
そう、通常であれば人間一人だけで立ち向かうような相手ではないのが大型の魔物だ。
三つ首の魔獣ケルベロスや、それこそ空中から飛来するワイバーン、四足歩行の氷の魔獣フェンリルなど、多種多様な大型魔獣が生息している。
その中で今回大活躍している魔物が、それこそ畑などを荒らすことでも有名なイノシシ系統の親玉であるケルベロスだった。
火属性の魔物なだけあって、エルヴェダーがやらないように心がけている火炎放射のブレスをやってくるので、火事になる前に何としても食い止めたいところである。
「くっそ、あいつだけ妙に強くねえかな!?」
「だったらルディアに水属性の魔術で何とかしてもらいましょうよ!」
「いや、待て、俺も使えるから任せておけ!」
前衛で戦う人間とはいえ、自分だって魔術に強いシュア王国の騎士団にいるのだから……とバリスディは水属性の上級魔術であるウォーターボム……水の爆弾を繰り出して、相手の近くで爆発させることによって火属性の魔物に大ダメージを与えるのだ。
それは見事に効果を表し、ケルベロスが纏っている炎を一時的に鎮火させることに成功した。
「今だ、一気に叩くぞ!」
「はい!」
これで攻撃力が格段にダウンしたものの、時間が経つと再度点火してしまうのでその前に一気に倒してしまう。
首の周辺に纏った炎によって近づくこともはばかられていたケルベロスに、大ダメージを与えるチャンスだと確信したルギーレは、せっかくバリスディがくれたこのチャンスを逃がすわけにはいかないと一気に攻め立てる。
「おら、おら、おらあ!!」
「グガ、ギャン!?」
四足歩行と巨体を活かして迎撃しようと思っていたケルベロスだったが、炎が消えたことによる全身への倦怠感は異常なものであり、ルギーレの攻撃に対する反応速度も迎撃する気力も残っていなかった。




