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30.空中のドッグファイト

「お前たちか? サイヴェル団長が言っていたルギーレとルディアってーのは?」

「はい、そうですが……あなたたちは騎士団の人ですか?」

「ああそうだよ。私は帝国騎士団所属のブラヴァール。こっちは同僚のシュヴィスだ。よろしく頼むよ」


 立て看板の下で待ち始めて五分後、二匹のワイバーンが空から降りてきた。

 それぞれの背中に乗っていたのはやや荒っぽい口調の金髪の騎士団員シュヴィスと、紫の髪の毛で紳士的な態度の騎士団員ブラヴァールだった。


「よろしく。俺はルギーレ。この女がルディアだ」

「どうも……それで私たちは、このワイバーンに乗っていくんですか?」

「ああそうだよ。だからこうやって二人で来たんだ。俺とブラヴァールであんたたちを運んでいくから、どっちがどっちに乗るか選んでくれ」


 そう言われても二人とも特に希望はないので、ルギーレがシュヴィスのワイバーンに、ルディアがブラヴァールのワイバーンに乗って帝都まで逆戻りすることに。


「君、予知夢を見たんだってね。陛下が襲われる光景みたいなのを」

「ええ、まあ……でもそれより、列車が爆破されたことのほうが今は重要かと思います」

「それもそうだね。まあ、詳しいことはいろいろと城についてから聞かせてもらうことになるから」


 そんな会話が繰り広げられている一方で、もう一匹のワイバーンに乗っているルギーレが不穏なことを言い出していた。


「えっ? 俺は何も聞こえなかったぞ?」

「いいや、確かに聞こえた。バッサバッサと翼がはためく音がな」


 レイグラードの使い手であったルギーレは、その常人離れの状態になった聴力もいまだに健在である。

 あの待ち伏せをしていた男たちの会話は町中の喧騒にかき消されて聞こえなかったが、翼の音と風の音しか聞こえない今では、後ろから徐々にこのワイバーンに向かって追いついてくる他の飛行物体の音を確かに聞き取っていた。

 ルギーレの言っていることが理解できないシュヴィスはそれに構わずワイバーンを飛ばし続けるものの、ルギーレはもっとスピードを上げるように指示を出す。


「なあ、もっと速く飛べないのか!?」

「無茶言うなよ! スピード上げて事故でも起こしちゃたまんねーんだ!」

「くそっ、このままじゃ……あっ!」


 後ろを振り向きながら苦々しい表情を浮かべるルギーレの目に、その飛行物体が黒い点となって徐々に近づいてくる光景が映った。


「来た、あれだ!!」

「……はっ!? あれって同じワイバーンじゃねえか!」

「くっそ……しかも乗ってるのは騎士団長に話した、列車爆破の主犯格の二人だぜ!」

「なんだって!?」


 黒いワイバーンが二匹。

 さらにそれぞれのワイバーンを操っているのは、自分たちがうまく撒いたはずのウィタカーとトークスだった。

 明らかに自分たちが乗っているワイバーンよりも速いスピードでぐんぐんと追いついてくるので、やっぱりさっさとスピードを上げてほしかったとシュヴィスに毒づくルギーレ。

 その一方で、隣を飛んでいるワイバーンに乗っている二人の目にもその追ってくる二匹の姿が見えていた。


「な……何なんだ、あのワイバーン!?」

「今ルギーレが言っていた通り、あの二人が列車爆破の犯人たちよ。ここは振り切ったほうがよさそうね!」


 おそらく自分たちを尾行してきたのか、それとも単なる偶然か。

 いずれにせよ、ワイバーンで移動する自分たちの姿を見つけて追いかけてきているのは間違いないので、シュヴィスとブラヴァールもスピードを上げ始めた。

 だが、そのワイバーンに向かって後ろから風を切ってナイフが飛んできたのだ。


「ぐっ!?」

「あぶねっ!!」


 なんとかかわしたものの、そのナイフ攻撃によってぐらついたルギーレとシュヴィスのワイバーンに追いついたウィタカーのワイバーンが、全力で横からその巨体を二人の乗るワイバーンにぶつけてきた。


「うわっ!」

「つかまれっ!!」

「う……うわあああっ!?」


 シュヴィスの声と同時に急上昇するワイバーンと、それを追いかけてくるウィタカー。

 だが、スピードに差があるのはここでも同じようでウィタカーのワイバーンがどんどん近づいてくる。

 そしてウィタカーは、二人の乗るワイバーンに突き刺そうとバスタードソードを突き上げてきた。


「くっそ!」

「うっ!?」


 とっさにその突き出された刃を斜め下に蹴ってずらしたルギーレは、そのままバランスを崩して落下する。


(しまっ……!?)


 だが、このまま落下するぐらいならいっそのこと下にいるこいつも巻き添えにしてやる。

 レイグラードのおかげで動体視力も向上している彼は、そのままきりもみ回転をしながらウィタカーの頭めがけて足を振り下ろして当てることに成功したのだ。


「ぐほっお!?」

「うっ、うおおあああああっ!?」


 頭に衝撃を受けたウィタカーは、そのままバランスを崩して自分のワイバーンから落下しそうになる。

 だが、しぶとくも彼はルギーレの黄色いコートの裾をつかんで落下を回避した。


「ば、バカやめろぉ!! 俺まで落ちる!!」

「俺だけ落ちてたまるかよ!! せっかくラッキーでワイバーンで飛んでいくお前らを見つけたんだからよぉ!!」

「だったらそのラッキーをアンラッキーに変えてやらぁ!!」


 どうやら偶然ルギーレたちのワイバーンを見つけたらしいのだが、だからと言って一緒に落ちていいわけがないルギーレは、ワイバーンの胴体にしがみつきながら足を動かして彼を振り払おうとする。

 しかし、その前にドォンッ!! という衝撃音とともに救世主が現われるのが先だった。


「うっ……おあああああっ!?」

「へ?」


 ウィタカーが真っ逆さまに地上に落ちていく。

 その直前に見えた、彼の側面に直撃したファイヤーボールの発動主は、すでにもう一匹のワイバーンとトークスを退けて援護に来たルディアだったのだ。


「よかった……間に合ったわ!」

「ルディア! 無事だったのか!?」

「なんとかね。それよりもあなたは早くこっちに飛び移って!」

「お、おう!」


 ルギーレがもう一匹のワイバーンに飛び移ると、もともとウィタカーが操っていたワイバーンはどこかに飛んで行ってしまった。

 ルディアとブラヴァールいわく、もう一人の追っ手であるトークスはルディアが強力な魔術を連発し、そしてブラヴァールがワイバーンで体当たりを繰り出して文字通り叩き落としたのだという。

 だが、ここで新たな問題が生じることが分かった。

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