310.ヴィーンラディ王国へ
ヴィーンラディ王国の王都の東にあるハンナンという場所。
そこからさらに東にある、もともと畑だった場所に着陸しようと思った二匹のドラゴンたちだったが、まずはその前にやるべきことがあった。
「くっそ、これじゃあ降りられないな!」
「魔物を討伐しているんじゃないんですか!?」
『恐らく処理が全然追い付いていないのだろう。向こうも夜で殺気立っているみたいだ。応戦するぞ!』
戦闘機を探す前に、まずはこの辺りの魔物たちを一掃しなければ着陸すらできないらしい。
余り大きな物音を立ててしまうとその戦闘機に乗って逃げて行った人間たちに気づかれてしまう可能性もあるのだが、だからと言ってここに着陸せずに、空から探すのはもっと骨が折れそうである。
「探査魔術は使えねーのかよ、ルディア!?」
「やってはいるけど、魔物の量が多すぎて人間とかそんな戦闘機とかの魔力をキャッチできないのよ! そっちこそレイグラードの加護で何とかできないの!?」
「俺の方も無理だ! 魔物の足音とか鳴き声とかで全然何が何だか音が判別できねえんだよ!」
ドラゴン二匹もその戦闘機の場所を探すのは難しいらしく、とにもかくにもまずは魔物たちを空から駆除しなければならない。
前にバーレンで自分たちが乗っている列車が襲われた経験のあるルディアは、今度は自分が空から攻撃をすることになろうとは思ってもみなかった。
「空への攻撃手段を持っている魔物も大勢いるな。夜だからか、いつもよりも凶暴で攻撃力の高い魔術を放ってくる可能性もあるぞ!」
そう言いながら自慢の弓を構えるヒーヴォリーは、持ち前の冷静な判断力と卓越した弓の腕前によって、まずは小型の魔物たちをしっかりと駆除していく。
だが残りの三人……特にルギーレとバリスディの二人は前衛タイプの人間なので空からでは何の役にも立たないのである。
まずは一旦その二人だけ地上に降ろしてもらい、ルディアは空から援護をすることになった。
本音を言えばドラゴンたちにも加勢してもらいたいのだが、まずエルヴェダーの方は火炎放射などで平原が火の海になってしまう可能性があるので、そうなると地上に降りるどころの騒ぎではなくなってしまう。
それからアサドールに関しては、自然を操って魔物たちを倒すことはできてもどこに戦闘機があるかわからない以上、もしかしたら大事な証拠品であるそれを誤って破壊してしまうかもしれないという懸念があり、こちらも加勢は空からの援護や体当たりぐらいしかできないとのことだった。
「数は多いけど、対処法さえ間違わなければ俺たちだってやれるってところを見せてやろうぜ!」
「あ、はい!」
副騎士団長であるバリスディに勇気づけられたルギーレは、彼の指示に従って突っ込みすぎないようにする。
何しろ今回の相手は人間ではなくて大勢の魔物たち。
それも夜なので行動が活発化しているだけあって、真っ向勝負でその中に突っ込んでいくのはバカのやることだとバリスディは言う。
「だからまず、でっかいのでもちっちぇえのでもいいからしっかりおびき寄せていくんだよ。レイグラードの活躍に関しては俺もエリフィル団長とかから聞いているから、その活躍は期待してるぜ!」
「ロックスパイダーのことも聞いたんですか?」
「もちろんだ。さぁ、やるぞ!」
そう、エスヴェテレスで初めて魔物相手にレイグラードを振るったのがあのロックスパイダーの巣の中での出来事だった。
それを思い返してみれば、いくら大勢の魔物が相手だったとしても臆することなんてそんなにないと思うルギーレ。
しかし、やはり戦力に差がありすぎるので油断は禁物である。
戦術には全然考えがなかったとしても、最初からきちんとした準備をしていく性格がそのバリスディの指示と上手くマッチして、少しずつチマチマと魔物たちを倒していく。
「空からも来ますよ!」
『わかっている!』
一方、ルディアとヒーヴォリーの援護部隊は地上もそうなのだが、空からやってくる鳥やワイバーンといった飛行タイプの魔物たちの対処にも追われている。
ワイバーンはドラゴンたちが体当たりをしてくれるのだが、そこに地上から魔術を放ってくる魔物の援護もあったりするので、気が抜けない状況が続いている。
そんな戦いを繰り広げている四人と二匹だが、ここでヒーヴォリーが魔物たちの行動に違和感を覚えた。
(魔物たちの寄せ集めにしては、随分と統制が取れているな?)
そう、野生の魔物たちのはずなのに変に連係してくるので対処がしにくい。
それはまるで、訓練を受けているかのような魔物の集団であった。




