308.着陸地点
結局グラルバルトはシュアの防衛に回ることとなってしまい、バーレンのティレフに続いて強力な戦力がこれで一つ減ってしまった。
だがそれでもドラゴンが二匹、副騎士団長が二人とまだまだ強力な戦力が残っているので、戦力としてはまだまだ十分だと思える。
それよりも気になるのは、これから向かうヴィーンラディ王国でどう立ち回るかである。
『俺様が思うのは、まずルディアはなるべく素顔を見せない方がいいと思うぜ』
「私も同じ考えですね。どこに反予言者の連中がいるかわかりませんし、王城に近づくなんてもってのほかでしょう」
「うんうん。ヒーヴォリーの言う通りだぜ。そもそも俺たちは別に王様に会いに行くのが目的じゃないしな」
そう、あくまで今回ヴィーンラディ王国へ向かうのはあの逃げていった戦闘機を探して破壊する目的があるからであって、王都に向かうとか王城に出向くとかなどは最初から考えていないのだ。
となると、あの戦闘機がどこへ向かうのかを考えて行動しなければならないだろう。
『俺様と戦ったあれはかなり目立つからな。キーンとかすごい音もしてたからいやでも注目を浴びるってなると、人が集まるような場所の着陸は避けると思うんだよ』
「んん、とするとあれかぁ? どっか自然の中に入ってそこで直すってことかあ?」
だったら一つ思い当たる場所があるぜ、とバリスディが言い出した。
その紫色の髪の毛の下にある頭の中の脳の記憶にある、戦闘機を着陸させられそうなその場所といえば……。
「郊外だよ、王都の郊外」
「郊外ですか? でも俺が考える郊外って、人がチラホラいそうなイメージなんですけど」
しかし、ルギーレの思い描く郊外とバリスディの言う郊外は別物らしい。
「まあ郊外っつっても、一番近くの村からもかなり離れた場所だからな。昔はそこに大きな畑があって、野菜とか果物とか作ってたみたいだけどさ。魔物が増えてきて畑が荒らされることも増えて割りに合わなくなったっつって、今はもう人間たちが離れてったんだよ」
「……おい、やけに詳しいじゃないか。それって誰から聞いたんだ?」
隣国とはいえ、違う国の内部事情にやけに詳しいバリスディを訝しがるヒーヴォリーだが、コミュニケーション能力に優れている彼にはキチンとした情報の出所があるのだという。
「俺はな、お前とは違っていろんなところに出向いてんだよ。ヴィーンラディに行った時だってそうだったよ。飲み屋とか武器防具屋とかいろんなとこだよ」
そこで現地の住人たちと仲良くなりながら、国内の情報収集に励んでいたのだというバリスディはその戦闘機が着陸するならそこであろうという場所の見当もつけていた。
それを聞いていたアサドールが、腕を組んでその場所の今の状況を回想してみる。
『ふむ、お主の言っている通りの場所なら吾輩も心当たりがある。これから吾輩の背中に乗ってひとっ飛びと行こうじゃないか』
「え、行けるんですか?」
あなたが大っぴらに飛んでしまったら目立つんじゃないかと心配になるヒーヴォリーだが、アサドールはその場所をわかっているからこそその提案をしたのだ。
『問題ない。そこは王都の東にあるハンナンという場所だが、さらにそこから少し東に行った場所には大きな森があって近くの平原に畑も展開していた。お主はその場所のことを言っているのだろう?』
「ああ、そうだよ」
『それならやっぱり問題はないな。吾輩は森のことを知り尽くしているから、いくらでも森と同化することができるんだよ』
「同化……?」
言っている意味がよくわからないのだが、とりあえず行けばわかるとアサドールが言うので彼とエルヴェダーの背中に乗せてもらうことになった一行。
ただしこのシュア内でもドラゴンが悠々と王都の上を飛んでいたりすると目立ってしまうので、日が落ちるのをもう少しだけ待ってからということになった。
その待っている間、エルヴェダーとアサドールで簡単に彼の能力を説明してもらう。
『こいつはこの世界の自然を自由に操ることができるんだ。まぁ、植物関係だけなんだけどさ』
「へー、じゃあ木を生やしたりとかもできるんですか?」
『そうだ。しかし吾輩がやりすぎてしまうと自然の生態系を壊してしまうことにもなりかねないから、よほど干ばつがひどい地域とか、自然が少なくて困っている場所とかでない限りやらないのだがな』
そう言いつつ、アサドールはこの応接室の隅に置いている観葉植物の植木鉢を手に取って持ってきた。
『例えばこの植物。これはまだ成長途中だが、これに吾輩の魔力をこうして注入すると……』
「……お、おおおおおお!?」
まだ芽が出て少ししか経っていないはずの観葉植物が、ニョキニョキと見る見るうちに成長し始めた!




