307.副騎士団長たち
その覚悟を持ってシュアからヴィーンラディに向かうルディア。
そしてそれについていくのはルギーレとドラゴンたちと、王国騎士団から二名の副騎士団長である。
『吾輩はお主たちと出会うのは初めてだな。それじゃちょっと自己紹介してもらえないか』
「はい。私はシュア王国第一騎士団副団長のヒーヴォリーです」
この二人の副騎士団長はどちらもシュア王国出身。
第一騎士団副団長はヒーヴォリー・ジェヴァザート、二十九歳。上官である第一騎士団長のグラカスとは騎士学校時代からの友人で、血の気の多いそのグラカスをサポートし、冷静沈着に任務をこなすことで知られている。
得意なのは弓だが、レベルの高い各種攻撃魔術や回復魔術も使えるので、後方支援として戦場において重宝される存在。
同じ弓使いであるファルスの左翼騎士団副団長のティハーンと、バーレンの弓隊隊長であるグラルダーから勝手にライバル視されているのは本人も気がついているが、微塵も相手にせずに自分の技術を磨くことに専念している。
「第二騎士団副騎士団長を務めているバリスディだ。よろしくぅ!」
そして彼と同じく副騎士団長の座についているもう一人が、バリスディ・ノーヴァダイン。二十八歳。
団長のエリフィルとは性格も戦い方も反対で、軽い性格でノリが良い。
戦いにおいてはロングバトルアックスを縦横無尽に振り回して敵を圧倒する、典型的なパワータイプ。それだけではなくヒーヴォリーと同様にレベルの高い各種魔術も使えるために、その後方支援のヒーヴォリーとは前衛にいる騎士団の団員たちからコンビで重宝されている。
同じ斧使いのファルスの右翼騎士団副団長カノレルと、バーレンの斧隊隊長シュソンは昔からの知り合いであり、彼らが合同演習にやってきた斧使い同士で鍛練をしたこともある。
『ああ、よろしく。吾輩はアサドールだ』
「話はいろいろと聞かせてもらいました。こうして伝説のドラゴン様三名とご一緒できるとは、私はとても光栄でございます」
「俺もです。さぁ、そうと決まればさっそくヴィーンラディへと向かいましょう。なーに心配いりません。俺たちが全力で反予言者派の連中から守りますよ!」
「え、ええ……どうもありがとうございます」
グイグイ来るこういうタイプは苦手だなあ、とルディアはやや引き気味になりながら思ってしまう。
だが、こうしてシュア王国の関係者が一緒についてきてくれるのはありがたいことだ。
準備も整ったことだし、不安な気持ちはあるが自分で決めたことだからもう今更「やっぱりやめた」というのは許されない。いや、周りが許したとしても自分でそれを許すことはできない、とルディアは思っていた。
……それなのに、宰相のアルバスからここで思いもよらない相談が一行に伝えられる。
「え? グラルバルトさんはここに残ってほしい?」
「はい。騎士団と私たちでいろいろと話し合いをいたしまして、その方がいいという結論に達しました」
その理由は単純な二つのことだった。
まず一つ目は、シュアの看視をしているドラゴンが二匹とも国外に出てしまうことになれば、それだけでニルスを始めとする世界征服計画を企てる連中に目をつけられてしまうのではないかということ。
それからもう一つは、赤いドラゴンのエルヴェダーとドッグファイトを繰り広げたあの戦闘機が再びこちらにやってくる可能性があるのではないかということ。
「特に二つ目の理由が重要です。その戦闘機に関しましては、まずエルヴェダー様からの情報が全てです。圧倒的な飛行速度を持っている上に、恐ろしいほどの威力を持っているであろうその筒状の弾丸を始めとする様々な兵器を搭載していることを考えると、申し訳ございませんがとても今の私たちの技術力ではかなわないと思われます」
地上からエネルギーボールを発射する大砲で狙うこともできなくはないのだが、やはりドラゴンをも翻弄するレベルの機動力と最新装備を搭載している相手にそんなものでは不安しか残らない。
魔術に関してのプライドは世界でも一、二を争うのだが、その一国の国王をサポートしている宰相のアルバスが、直々にこうして頭を下げるほどの話らしいのだ。
それについてはもうルギーレたちではなく、黄色いドラゴンのグラルバルトが決めなければならないことだった。
ルギーレたちとしては今まで一緒についてきてくれていたグラルバルトが、ここで抜けるとなるとかなりの痛手なのだが……。
『……わかった、私は残ろう』
「グラルバルトさん!?」
『私だって君たちについていった方がいいと思っているのだが、シュアを見守るのだって看視者である私の重要な役目だ。それにこのエルヴェダーだってアサドールだって私と同じ伝説のドラゴンなんだし、二匹もいるんだからしっかりやってくれるはずだ』




