306.ルディアの地元
ヘルヴァナール世界の南東に位置している、ヴィーンラディ王国。
元々は別の地域から移り住んで来た人物達が建国したとされている国であり、現在までおよそ千年以上の歴史がある。
この国はバーレンやラーフィティアと同じく、自然が多いと魔物も多い国の典型的なパターンであり、王国が擁している騎士団は日々その魔物の討伐に駆り出されている。
王都近くには幾つかの村が存在しているが、それらよりは圧倒的に王都に住んでいる人間の方が多いので、それもまた自然が大部分を占める理由となっている。
国土は一年の内半分以上が温暖な気候で、雨が降ると蒸しやすくなり易いのが特徴。そもそも王国の半分以上を自然が占めているのが特徴で、人間が住める地域は限られてしまっているのだ。
「で……そこの看視担当があなたってことですね?」
『そうそう。どうもよろしく』
全身を緑、もしくは黄緑色でコーディネートしたファッションに身を包んでいるのは、そのヴィーンラディとバーレンの二カ国を看視する担当の緑色のドラゴン……バーレンでティレフに客人としてやってきた張本人が今こうしてここにいる。
「それでええと……お名前は?」
『吾輩はアサドールと申す。このエルヴェダーの貿易商の手伝いをしている』
「手伝い?」
アサドールと名乗った緑色の男はうなずく。
『ああ。まあ本業は学者なんだが。それよりもいろいろとあのティレフと、このグラルバルトから話は聞かせてもらった。その金属製の鳥みたいな兵器だったら吾輩にも心当たりがある』
「本当ですか!?」
ブラハード城の中に、パッと明るい話題が飛び込んできた。
バーレンの騎士団を率いなければならず、結局こっちには戻ってこないことになってしまったティレフの代わりにこうしてやってきた彼だからこそ、わかる話らしい。
『あれは戦闘機という次世代の乗り物だ。魔力を動力源として、吾輩たちドラゴンよりも風の魔術よりも速いスピードを叩き出すことができる』
しかし、その戦闘機というものはまだ開発途中だったはずなのに……と首を傾げるアサドール。
彼の話によると、元々はゼッザオという霧の島の中で開発されていた乗り物だったはずなのだが、それが完成形になって実際に空を飛び、武器を発射するようにまでなっている。
これは一体どういうことなのだろうかと考えるアサドールだが、ティレフとグラルバルトから話を聞くうちにあのニルスが絡んでいることを知った。
『あの男が勝手に設計図やら何やらをゼッザオから持ち出したに決まっている。そうでなければ、武器を搭載してお主たちの前に現れるはずがない』
「ゼッザオって、そんなに文明が進化しているんですか?」
『ああ。ハッキリ言うが、このシュアの文明が可愛く思えるレベルだぞ。馬なんて使わないし、遠くの相手と通信をするのも魔力を気にせずに使うことができる、電話というものも存在している』
自信たっぷりにそう言うアサドールだが、実際にそれを見たことがないドラゴン以外のメンバーたちにとっては説明だけされても何だかピンと来ない。
「そう言われてもねえ……」
「ま、まあゼッザオの話題はまた今度にして、今はそのニルスがどうしてこっちに渡ってきたのかとか、これから向かうヴィーンラディのことについてもっと詳しくとか、そういう話をしようぜ」
『お主から振ってきたんだろうが。……まぁいい。それでヴィーンラディだが、お主もそのヴィーンラディの出身だったな?』
「はい、そうです。私が知りたいのは、私を目の敵にしている反予言者派の連中の動きについてです」
そう、それさえいなければルディアの気持ちも曇ってなんかいないのである。
それがいるからこそ彼女が狙われるリスクが高くなるのだし、最悪の場合は殺されてしまう可能性だってある。
このシュアの王城まで乗り込んできて、予言者が来ていないかを確認するような連中なのだから。
そんな連中が少しでも減っていればいいんだけど……と呟くルディアだが、現実はさらに過酷で残酷な事態になっているらしい。
『ふむ。吾輩の知っている限りでは、お主が脱走してからかなりの人数を増やしたと聞く』
「えっ……」
『お主が国外に逃げたという情報をキャッチした反予言者派の連中は、それをいいことに国内で勢力を増したんだ。お主が予言が当たらないのを自分で責めて、それで逃げた臆病者だとな』
「ちょ、ちょっと! 私は確かに逃げた人間ですけど、理由としては全然違いますよ!」
何でそう言われなければならないのか。
ルディアには全く理解ができないが、アサドールは反予言者派の連中の立場に立って考えてみる。
『まあ、予言というものを胡散臭いと思っている連中にとっては、自分たちの勢力を増やすためなら理由なんてどうでもいいんだろう。お主がヴィーンラディからいなくなった今、戻るなら相当な覚悟がいる。でも、その戻ることを選んだのはお主だからな。それを忘れるなよ』




