305.腹はくくった
しかも、敵はその戦闘機だけではなくルディアの反予言者派の存在だってそうだし、もっと言えば失踪した魔術師たちだって見つかっていないし、グラルバルトとアーロスを襲撃した謎の人物の行方だってまだわかっていない。
ひとまずこの三つの話をどうにかしなければならないのだが、その話を黙って聞いていたルディアがここで動く。
「……私、行きます」
「え?」
「ヴィーンラディに行きますよ。だって、どれもこれもヴィーンラディを避けては通れない問題じゃないですか。ですから、私がヴィーンラディに行ってちゃんとその戦闘機だの反予言者の一派だのと決着をつけておかないと、この先ずっと不安を抱えたままになると思うんです」
そう口走るルディアの瞳には、強い決意が表れている。
このまま逃げ続けていてはいけない。いずれは絶対に向き合わなければならないこの問題を解決するのは、こうしてヴィーンラディに行く理由ができた今しかないと確信したからだった。
「もちろん、ヴィーンラディに向かうのは危険だと思っています。でも私は元々ヴィーンラディの人間ですからね。地元に戻る時がやってきたってだけのことです」
「理屈はわからないでもないけど……」
ティレフは反対の意思を見せるが、ルギーレは彼女の意見を尊重したいと言い出した。
「俺はルディアが好きにすればいいと思うよ」
「お、おいお前まで何言ってるんだ!?」
「ルディアが行くにしても行かないにしても、俺はヴィーンラディに向かう予定ですから。それにルディアだってこう言ってるんですし、魔術師として最強だったらそんな反予言者の一派なんかに負けるはずがないですよ」
そこまで言われてしまっては、もうこの女の決意をひっくり返すことはできないだろう。
ティレフは肩をすくめて、諦めの表情を見せて折れた。
「わかったよ……俺もついて行くけど命の保障はできないからな」
「ええ、わかっています」
こうしてシュアの人間たちにも話を通して、ルディアもヴィーンラディに向かうことが決まったのだが、翌朝に事態は急展開を見せることとなる。
◇
「え? ティレフさんは一緒に行けなくなったんですか!?」
「ああ、すまないがシェリス陛下からすぐに戻ってきてほしいと連絡があってな。どうやら俺に直々に客が来ているみたいでさ。だからすまないけど後は何とか頑張ってくれ」
起きてすぐにシェリスとロナからの魔術通信があり、すぐにバーレンに戻ってくるようにとの連絡をティレフは受けたのだという。
考えてみれば、ティレフはシュアの人間ではなくバーレンの騎士団長という立場なだけあって、それこそ余りにも長い間バーレンを留守にするわけにはいかないだろう。
それは納得できたのだが、ドラゴン二名だけでは流石に不安が残る。
今までは無敵の存在だとばかり思っていたのに、突然現れた黒ずくめでフードを被った人物に狙撃されて傷を負ってしまったのが、無敵ではないという証になってしまったからだ。
急ぎの来客だということで、グラルバルトが馬と一緒に彼をバーレンまで送り届けてからシュアに戻ってくるとの話だったのだが、その間にシュアからもメンバーを出すことが決まった。
『でも、代わりの人間たちがきちんとシュアから俺様たちについて来てくれるから安心しろ』
「誰でしたっけ?」
『この王国騎士団の第一騎士団と第二騎士団それぞれの副騎士団長たちだ』
エルヴェダーがそう言った通り、今回ルギーレたちに同行するのはその副騎士団長コンビということになった。
グラカスやエリフィルは本来の自分たちの騎士団を率いるという任務があるわけだし、そもそも今回のニウニー山脈への同行だって一時的なものでしかなかった。
メリラとロクウィンの第三騎士団コンビは、元々レフナスを中心とした王族関係者やこの王都を守護しなければならない立場の責任者なので、流石に国外へと向かわせるのはレフナスからは許可が下りなかったのである。
その代わりの人間たちが、エルヴェダーの言っている副騎士団長コンビだったのだが、実はそれ以外にもまだルギーレたちについてくることになった存在がいる。
それが、グラルバルトがティレフを送っていったバーレンにやってきたというその来客だったのだ。
来客の正体はティレフはもちろんのこと、グラルバルトもバーレンの面々も驚きを隠せないほどの男だった。
伝説のドラゴンまでもが驚くその男とともに、ルギーレたちは新たなステージであるヴィーンラディ王国への旅路を歩むこととなる。
例えその道のりが厳しく険しいものだとしても、ルディアの決意は変わらないし変えるつもりもなかった。
第七部 完




