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29.予知夢のジレンマ

「その軟禁された時から、私は魔術を極めようと思ったの。体力とか運動とかは自信がなかったし、軟禁されている間は特にほかにやることもなかったからね」


 城に軟禁され、予知夢を見たかどうかを毎朝聞かれるようになり、その居心地の悪さを紛らわせるという理由もあって始めた魔術の勉強。

 皮肉にも軟禁状態で集中できる環境が整っていたこと、ヴィーンラディ王国が魔術の発展している国であること、そして生まれつき体内の魔力が多いことが合わさって、ルディアはめきめきと魔術の知識と技術を伸ばしていった。


 しかし、そんなルディアに思いもよらない事態が降りかかる。

 それはその軟禁生活が始まって四年が経過した時だった。

 彼女はその生活の中でヴィーンラディの王都から出ることを許されず、一日の大半を城の中で過ごしていたのだが、ある日突然王都に魔物の大群が襲撃をかけてきたのである。

 その頃はルディアの予知夢も精度を増し、ほぼ必ずその夢の内容が現実に起こることから、国王を始めとしてヴィーンラディの国民たちはすっかりその予知夢に頼る生活になっていた。

 しかし、その魔物の襲撃はまったく予知夢にかすりもせず、突然の出来事にすっかり油断していた王都の人間たちは、緊急事態に対して反応と行動が遅れてしまったのだった。


「その後はすごい責められたわ、国民から。だけど私の予知夢も完全に当たるわけじゃないし、そもそも私はそんな予知夢も見ていないのよ。さすがに国王陛下とか王城の関係者はかばってくれたんだけど、どうしても居心地がどんどん悪くなってね」

「それで出てきたって? ヴィーンラディの王都が魔物に襲われたってのは俺もパーティーにいた時に聞いたけど、その時はまだ予知夢使える人が国を出たって聞いたことなかったぜ」

「それはそうよ。だって私は内密に逃がされたんだから」

「あー……それでか」


 予知夢に頼り切った生活になってしまっていた以上、その魔物襲撃をどうして予知夢で見られなかったのかと責める声は国民から日々大きくなり、ついには一部の過激派から命まで狙われるようになってしまった。

 城の関係者の中にもそうした過激派が存在しており、例えば食事に毒を盛られたり、護衛に化けてルディアを殺そうとしたりと軟禁生活だから安心とは言えない日々が続いた。

 そして結局は、その予知夢の能力が潰されてしまうことを恐れた国の重鎮たちの手によって、数人の護衛とともに秘密裏に国外へと一時避難を余儀なくされてしまったのだった。


「それで世界各地を転々としながら、時折り見る予知夢のことをヴィーンラディに伝えていたんだけど……今度はそれがヴィーンラディで起こるかもしれない夢とは限らなくなったのよ」

「それってもしかして、他の国へ行ったら他の国の予知夢を見るようになったってことか?」

「その通りよ。というか、他の国の領土内ではその国の予知夢しか見られなくなっちゃったの」

「そりゃまたピンポイントな話だぜ……」


 アーエリヴァでは小さな村で大規模な火災が起こり、その村が燃え尽きる予知夢が当たった。

 ファルス帝国では貴族たちの謀反が起こり、騎士団が壊滅させられそうになる話も見事に的中させた。


「でも、それを他の国でいきなり言えるわけがなくてね……。極々小さなもので現地までの距離が近くて、その国とかヴィーンラディ国内に影響が出ない程度なら食い止められることはいくつかあったんだけどね」

「まあ、そりゃ確かに一歩間違えたら国際問題に発展しそうなことではあるわな」


 言いたいことも言えない。言わなきゃいけないことが言えない。でも言わないと何人もの人間が犠牲になる。

 そのかなりのジレンマに苦しみながらも、自分でできるだけのことはしてきたルディアだったが、他国で小さな事件を予知したことも少しずつ広まるようになった。

 結果的にはそれを聞きつけた預言者反対派の人間に襲われて護衛と相打ちになったり、時には予言をしたにもかかわらずそれを信じなかった人間に「なぜもっと早く言わなかったんだ!」と逆恨みをされて護衛が殺されてしまったりした。


「そして気が付いたら私は一人ぼっちになって、でもヴィーンラディに戻ったら殺される可能性が高いから戻ることもできなくて……」

「だからこのエスヴェテレスに来たのか」

「そうなのよ。だから本当はあなたがアーエリヴァに行こうって言いだした時も嫌だって言おうと思ったんだけど、その時はあなたがまだ反預言者の人間とつながってるか半信半疑だったから結局言い出せなくてね」


 そして、エスヴェテレスの皇帝が殺される予知夢も本当は言おうか迷いに迷っていたのだという。


「皇帝が殺される予知夢も、本当は不敬罪とかに当たったら嫌だからどうしようかと思ったけど、でもさすがに一国のトップが殺されてからじゃ遅いしって思って今回は言うしかないって思ったの」

「でもかなりリスキーだよなぁ。それって俺みたいな第三者から見たら、皇帝に向かって殺害予告してるみてえなもんだからなあ」


 その苦しみをどうすればよいのか今も答えが見つからないルディアと、一緒に歩きながら話を聞くことしかできないルギーレの目の前には、いつの間にかその目的地の立て看板が見えてきていた。

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