301.ロックオン
「うおああああああっ!?」
「お、落ちる!!」
ドラゴンが戦闘機の上から急降下してきて、一気に地面に向かって押しつぶそうとしていることに気がついた二人。
先ほど、攻撃を受けながらもこの戦闘機の動きとその攻撃方法を見ていたドラゴンは、戦闘機よりもさらに高度を上げて一時的に二人の視界から消えることに成功した。
そしてタイミングを見計らい、戦闘機の上に自分の身体を落とすことに成功した。
このまま一気に押しつぶしてしまえば全て終わりだ。
そう考えているドラゴンだったが、やはりそこはニルスの開発した新世代の兵器なだけあって、二度目の急加速装置を使われてしまう。
『グルッ!?』
「危なかった……今度はこっちの番よ!!」
マリユスの冷静な判断によって危機を脱出した二人は、再度旋回して次の攻撃を繰り出す。
先ほど撃っていた小さい弾丸ではなく、今度はもう少し大きなエネルギー砲を撃ち出すために充填に入る。
これは魔力の消費は大きめだが、弾丸を千発撃ち込むよりも威力があるのだとニルスが説明してくれていたので、それを使うことに決めた。
「しかも魔術防壁の効果はなくなるからな。そして絶対に外さない仕掛けだってあるんだよ!」
その攻撃に絶対の自信を持っているマリユスが、いつになくハイテンションになっているのを横目で見ながら、ベティーナはまたドラゴンに上に回り込まれないかどうかを厳しくチェックする。
それから下にも死角ができるので、マリユスにはなるべくジグザグに動いてもらって位置を確かめながらの戦いだ。
その彼女の横では、マリユスが目標となるドラゴンが前方を見るモニターの中心部に映っていることを確認して、右手のレバーの握り部分についている青いスイッチを手前に押し込んだ。
するとピピピ……と断続的な音が響き、同時にモニターに青い枠が出る。
「よし、これでロックオン……逃がさないからな!」
その枠が目標物であるドラゴンを捕捉し、色を青から赤へと変えたその瞬間を見計らい、マリユスはレバーの先端にある赤いボタンを両手の親指で目一杯押し込んだ。
すると、機体の下についている砲口からバシュッと二回音が響き、筒状になっている大きな弾丸がドラゴン目掛けて飛んでいった。
『ガアアアッ!?』
ドラゴンはそれをご自慢の炎のブレスで迎撃してやろうと考えたのだが、その弾丸は耐熱加工もされている逸品のため、あいにく炎で撃墜できるようなものではなかった。
炎を突き抜けてくるとわかったドラゴンは、咄嗟の判断で身体の力を全て抜いて落下する。
次の瞬間、間一髪で筒の弾丸が自分の頭上を通り過ぎて行った。
だが、それで終わりかと思いきやその弾丸は先ほどのマリユスたちが操る戦闘機のように百八十度旋回して、自分の方に戻ってきた。
これにはドラゴンの方も驚きを隠せないが、その時この動きを見てある方法を思いついた。
『グガアアアアアッ!!』
「つ、突っ込んで来る!?」
「まずい、避けるぞ!!」
自分を追いかけてくるとなれば、その軌道を利用して戦闘機に体当たりを仕掛ければいい。
その閃きを実践したのは良かったのだが、ドラゴンよりも機動力の高い戦闘機の動きには流石についていくことができず、すんでのところで急降下してかわされてしまった。
だが、マリユスたちの方も普通の回避では間に合わないと悟って加速装置を発動させなければならず、これでリミットの三回目を迎えてしまった。
「くそっ、魔力の消費が激しい!! これではもうまともにあのドラゴンと戦うことなんてできやしない!!」
「どうするの!?」
「いったんヴィーンラディに向かう!! そこに魔力を補給できるポイントを造ってもらっているはずだからな!!」
本来であれば、この戦闘機の実力をもっと試すためにコーニエルへと向かって、どれくらいの時間で焼け野原にできるかどうかを計測する予定だった。
しかし、まさかの赤いドラゴンの乱入によって肝心のエネルギーを使い切ってしまうという大失態に終わってしまったマリユスたちは、無念の感情を抱いたままヴィーンラディへと飛行を続けるしかなかった。
『グルルルル……』
残されたドラゴンは、後ろから自分をまだ追いかけてきている筒状の弾丸をどうやって処理するかを考えていた。
このままどこかの町や村には突っ込めないので、やるとすれば一か八かであそこしかなかった。
もう時間がない。
それを早速実践するべく、ドラゴンは身を翻してそのポイントへと全速力で飛び始めた。




