299.例の兵器
最初に入ってきた、今まで見つけることができなかった最後の出入り口とはまた別の出入り口から外に出ることに成功したベティーナは、例の合流ポイントへと急ぐ。
このニウニー山脈はしっかり整備されているだけあって気兼ねなく走ることができるので、あの兵器が来るまでもう少しの辛抱である。
後ろを振り向けばルギーレたちはまだ足止めを食っているらしく、追いかけてくる気配がみじんもない。
(でも、いつか一対一で勝負してちゃんと決着をつけたいものよね!)
そう、この敗北感だけは絶対に忘れることができない。
その悔しさをかみしめたまま走るベティーナの頭上に、ふと一つの影が差す。
それに気がついて視線を真上へと向けた彼女の目に映ったものは、青と白でカラーリングされて太陽の光で輝く金属が特徴的な大きな胴体を持っている、次世代の新開発兵器だった。
「来た……意外と早かったわね!」
ならば自分も早く合流しないといけないので、ベティーナはさらに走るスピードを上げてニウニー山の登山道をひた走る。
こちらはアーエリヴァに続く登山道のため、実際にアーエリヴァに先回りしていろいろと策を練っていたマリユスがこうやって飛んできてくれたことを考えると、予想以上にその完成度は高いものだとうかがえる。
だが問題は、これから合流した後に向かうその王都での戦いっぷりである。
(ニルスの話によると、ドラゴンよりも圧倒的に速いスピードで空を飛ぶって話だったからそれはこのことで証明されたけど……後は搭載しているっていう装備がよくわからないのよねえ)
実際、説明を聞いてもベティーナはチンプンカンプンだったので、その機械的なことは全てマリユスやリュドに任せることにしている。
ベルタとライラという二人の頼もしい仲間たちがあの役立たずとその仲間に殺されてしまった今、残っている勇者パーティーのメンバーは自分を含めて三人しかいない。
その代わり、今回一緒に手伝いに来てくれたカラフルなコートの集団……旧ラーフィティア王国の騎士団の人間たちやバーサークグラップルの残っているメンバーたちが自分たちの仲間になってくれているので、戦力としては問題ない。
(むしろ問題なのは、そのバーサークグラップルの肝心の三人がどこかに消えちゃったのよねえ)
こっちも残っている残りの三人の幹部……ウィタカー、ヴァレル、トークスたちは偵察という名目で先にこのシュアに入ったはずなのだが、そこから連絡が取れなくなってしまった。
まさかあの役立たずの味方になっているのでは? と思ってしまったベティーナだが、先ほどの役立たずたちとの戦いでは援護に来ている様子は見られなかったので、その可能性は低いかもしれないとも思う。
(でもわからないわね。たまたま今は別行動をしているだけで、裏で私たちの情報を流しているかもしれないんだし……)
そのことに関しては今はニルスに調査を任せているので、そっちはそっちでやってくれているのだと信頼しておく。
こっちは大金と長い時間をかけて先ほど飛んで行った新開発の兵器を与えてくれるだけの信頼を得ているのだから、その信頼を失わないようにするべく活動するだけだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……ごめん、待たせたわね!」
「いや、大丈夫だ。ここじゃないと着陸できる場所が見当たらなかったからな」
「それもそうか。じゃあ行きましょうか!」
「ああ」
この新開発兵器に欠点があるとすれば、なるべく広い場所じゃなければこうして着陸できないほどの胴体の大きさがあるということだ。
もっとコンパクトに纏められないのかとニルスに言ってみたのだが、それこそいろいろとパーツを組み合わせたり制御システムなるものを組み込んだりしないといけないらしく、これが現在できる最小の大きさらしい。
「さぁ、この戦闘機とやらがどれだけの活躍を見せてくれるかしらね」
「事前に行なった実験では、アーエリヴァの村一つを十分足らずですべて灰にできたんだが……今回はなにぶんシュアの王都コーニエルだからな」
そうなると小さい村一つを破壊するのとはわけが違うぞ、とマリユスはぼやく。
しかしああだこうだ言っても始まらないので、まずはそのコーニエルに向けて機体を離陸させる。
見た目の大きさの割に小回りが割と利くし、事前に行なった飛行訓練ではマリユスがコツをつかんで斜めに機体を傾ける旋回飛行も習得している。
一方のベティーナはセンスがゼロらしく、ニルスから直々に操縦は任せられないという判断を下されてしまったため、今回は助手席において周囲の状況を確認する役割を担うこととなった。
「そういえばさ、私とかあなたが使っているような闇の武器シリーズってもう量産体制に入っているんだっけ?」
「ああ。工場もあの島にあるから、後は材料さえ揃えばいくらでも作り出せる状態だ」
「ふふふ、なら大丈夫ね」
すでに赤水晶も山ほど採掘したんだし、これで準備は整ったのでまずは襲撃をかける……はずだったのだが、こんな時に限って想定外の邪魔が入ることになった。




