298.次の一手
(何よあの技……私たちが収集したデータにあんなのなかったじゃない!!)
訳のわからない、ルギーレの繰り出す新しい技。
それを連発されて倒されていく自分たちの部下たちの姿に危機感を覚えたベティーナは、少し早いけどあれを出すしかないかと腹をくくった。
彼女は懐から魔晶石を取り出して、あれを起動させるようにマリユスに連絡を入れる。
「あ、マリユス? ちょっと予定が狂っちゃって予定変更!」
『何があった?』
「あの役立たずが妙に強くなってやってきたのよ。だからあれを起動してここに迎えに来て。そしてそのまま王都に襲撃をかけるわ!」
『……そっちの音からすると相当大変そうだな。わかった。なら例の兵器を起動する』
「よろしくね。こっちは予定数が集まったからさっさと退散して、予定の場所で合流するわ!」
『頼んだぞ』
通信を終えたベティーナは、この大人数の戦いの混乱に乗じて自分が最初に入ってきたあの出入り口とは違う場所から脱出を試みる。
「ふんっ、せいぜい頑張ってよね。あれだけの数があればもうここに用なんかないわよ」
そう言い残して、後ろで縛っている長い金髪を揺らしながら走り抜けるベティーナだが、彼女のその後ろ姿をルギーレの視界が捉えていた。
「おっと、逃がすかよっ!!」
「くっ!!」
すでに自分に群がってくる敵を全て倒したルギーレは、何とかベティーナもここで仕留めてしまうべく一気に襲いかかる。
幸いにもさっきの会話は聞かれていなかったベティーナだが、こうして目の前に立ち塞がられてしまうとどこか別の出入り口から出るか、あるいは……。
「あなたを倒してここから抜けさせてもらうわよ」
「寝言は寝てから言いやがれ!!」
「あらあら、お元気ねえ。でも……ふふふ、あんな技だけで私に勝てるとでも思っているのかしら?」
「そんなの、やってみなくちゃわからねえだろうがよおっ!!」
そう言い終わると同時に、早速ルギーレは先ほどの技……デッドライジングストームををベティーナに向かって繰り出した。
しかしながら、やはりベティーナもこれだけの部下を率いてここまでやって来られるだけの権限を持ち、ルギーレとともに旅をして世界各国で噂になるほどの槍と弓の腕前を持つだけあって、すんなりと槍の薙ぎ払いを繰り出してその攻撃をブロックする。
だが……。
「うっ!?」
「オラオラあ!!」
この自分が、まさか打ち負けして体勢を崩してしまうとは。
しかもそれだけではなく、その技の衝撃波によって吹っ飛ばされてしまったのも頭で理解できない。
だがこっちには魔槍オリンディクスがある。
マリユスの魔斧ドライデンと一緒にニルスに作ってもらったこの武器が、ちょっと新しい技を身につけただけの役立たずに負けるわけがないんだから。
ベティーナは今でも自分の技術に自信を持っている。
伊達に勇者パーティーの一員として活動しているAランクの冒険者ではないのだから。
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
「はああっ!」
いったん距離を取って自分の有利な間合いに持ち込もうとするベティーナと、それに対して距離を詰めて間合いを取らせようとしないルギーレの攻防が続く。
純粋なパワー勝負では先ほどのように打ち負けてしまうので、ここはリーチの長さを活かしてチクチク攻め立てていく戦法に切り替える。
しかし、彼女が思っている以上に役立たずのルギーレは成長していた。
「うおらああっ!!」
「ぐはっ!?」
高速突きを回避されて、一気に懐に飛び込んで来ようとするルギーレを危機一髪のバックステップで回避したベティーナだったが、その後に追い打ちで繰り出された左の蹴りが彼女の腹にさく裂した。
鎧を着て相当重量が増しているはずの自分の身体が、先ほどの衝撃波と変わらないぐらいの威力を持つその蹴りによって吹っ飛ばされた。
これはもう手加減一切なしの本気モードで行くしかないと考えているベティーナだが、そこで運よくまだ残っている手下の犬たちやコートの集団がルギーレに襲い掛かっていく。
(役立たずが相手だからどこかで甘く見ていたけど、これはもう次に会ったら本気で行くしかないわよね!)
しかし、今はまだ決着をつける時ではない。
なぜなら先ほど魔晶石で連絡を入れたマリユスが例の兵器を起動してこちらに向かってきているはずなので、その彼と合流するべく外に出なければならないからだ。
試合に勝って勝負に負けたような気持ちを抱えつつも、とにかく今は何とか外に出るべく部下たちがルギーレを足止めしてくれている前に逃げるべきだと判断したベティーナは、近くの出入り口のドアを開けてさっさと外に出て行った。




