297.それぞれのスタイル
「あいつ、やっぱりバカだ……」
丁寧で礼儀正しい性格でもあるエリフィルから、そんな呟きが出てくるというのはそれだけ彼がグラカスにうんざりしているのだろう、とルギーレは察した。
それはともかくとして、この状況になってしまったらもう止められないしこちらの存在も露呈してしまった。
「あの三人まだ生きてた……まあ、あの役立たずはともかくとして、騎士団長の二人がそう簡単に負けるはずはないわよね」
あくまでも足止めができればそれでいい。
そう考えてこんな状況になるのを見越していたベティーナは、まず採掘作業に当たっていた部下たちを動かして三人を仕留めにかかる。
一方で三人の中で一番冷静な性格のエリフィルは、先ほどグラカスが突っ込んだドアから一旦戻って階段で二階層目に上がる。
そこは岩壁を掘るべく造られた即席の通路であり、掘ったものをすぐに纏められるように最低限のスペースしかない。
人が四人並んでギリギリの幅しかないことを考えて、あえてここを戦いの場に選ぶエリフィル。
(あのバカと違って真正面からやり合うわけにいかないからな)
周囲の岩壁に沿っているこの通路は、楕円形になっているこの赤水晶の採掘場をグルリと一周できるようになっている。
そして二階層目といえども、普通に考える家の二階分ぐらいの高さではなく、三階建ての建物の屋上から下を見下ろすような感じだった。
ということはそれなりの高さがあるわけで、そこから落ちると……。
「うっ、うわああああああああっ!?」
最初にエリフィルに突っ込んでいった敵の一人が、そのエリフィルに投げ落とされて下の硬い岩の出っ張りに背中から叩き付けられる。
そして地面へとバウンドする形で落ちてしまい、ピクリとも動かなくなった。
この狭い場所で、そして壁を背にして戦えば囲まれずに何とかこの大人数相手でも何とかなる。
そう考えたエリフィルの作戦は見事に成功し、敵は武器を振るうことを考えると必然的に彼との一対一を選択しなければならない。
それから離れた場所から敵が魔術をぶつけようにも、弓矢で狙おうにも彼と戦っている味方が上手く壁になってしまうので、それも上手くいかない。
それもこれも、全てはエリフィルが今いる通路の中で上手くジグザグになっている角のおかげだった。
そのおかげで接近戦では騎士団長の座にいる彼に勝てる者は出てこない。
そして魔術や弓を使う連中に対しては、倒した敵の身体を盾にして防ぎながら接近する。
(弓は現地調達で十分だ!)
彼を倒すべく次から次へと二階層にやってくる敵たちだが、その動きを見てふとエリフィルがあることに気がついた。
(別の出入り口からも敵がやってきている。となればやはりその別の地上の出入り口も敵が発見したってことか……)
ここに繋がっている出入り口は一つだけではない。
騎士団しか知り得ない他の出入り口からもこうして続々と敵がやってきているとなれば、やはり失踪した魔術師たちが情報を漏らしたとしか思えないし、魔術師たちであればこの採掘場に入るためのパスワードも知っているはずなので辻褄は合う。
その魔術師たちを捕まえて、最終的には敵について知っている情報を自白剤で全て吐かせてから毒か何かで処刑しなければならないなと考えているエリフィル。
その思いは一階部分で戦っているグラカスも同じ気持ちだった。
「おらおらあ、死にてえ奴からどんどんかかってきやがれ!!」
グラカスとエリフィルは同じ騎士団長同士で何かと比較されることが多いのだが、純粋な武術の腕ではグラカスに分がある。
お互いを同じロングソードを使う騎士団長として、ライバルと認めているのだがグラカスの方が若干勝率がいい。
だがこうした戦場での戦略に関しては、冷静に物事を考えて組み立てるエリフィルを評価する人間の方が多い。
エリフィルが率いている第二騎士団は不利な戦況からでも鮮やかに覆して大逆転するなど、戦略に長けている騎士団として一目置かれている。
しかし今回はただの調査という名目で部下たちを動かすことができなかったのと、グラカスが最初に見張りを抱えて突っ込んでしまったからこそ、こうしてたった三人で戦わなければならない状況になってしまっているのを、エリフィルは心の中で嘆いている。
「ふっ!!」
そしてルギーレはといえば、先ほど何がどうなって繰り出すことができたのかわからないあの「デッドライジングストーム」を連続して使い、二人が戦っているのを必死に援護している。
その技は今まで単純に衝撃波を生み出すだけだった回転斬りなどとは違い、威力も攻撃範囲も桁違いだ。
それによって次々となぎ倒されていくコートの集団や犬たちだが、もちろんそれをよく思っていないあの女がここで動き出した。




