295.犬たちの実力
(くっ、あの女……私たちを戦わせてその隙に!?)
だったら早く追いかけなければいけない。
それはわかっている。
わかってはいるのだが、目の前に飛びかかってくる犬たちをまずはどうにかしなければ話がまるで進みそうになかった。
本来であれば、三人ともこんな犬ごときさっさと倒してしまえるはずだったのだが、まず相手の数が十匹と多いのが問題である。
ベティーナが教育したおかげで妙に連携が取れているその犬たちを捌くのでなかなかいっぱいいっぱいのルギーレたちだが、次なる問題は戦っているこの場所が洞窟の中の通路ということである。
(見えにくい!)
鉱物の輝きが明かり代わりになってくれてはいるものの、それでも外と比べれば暗いし狭い洞窟の中では、小柄で機動力が高い犬を相手にするのはグラカスでもなかなかキツイものがある。
しかもその犬の全てが黒い毛を持っているので、暗がりの中に同化してそこから奇襲をかけてくることも可能だ。
例えこの場に魔術師がいたとしても、すばしっこい動きの犬には魔術をなかなか当てられないだろうし、当てたら当てたで運悪く仲間を巻き込んだりその仲間に誤爆してしまう可能性だってある。
だったらどうやってこの犬軍団に勝てばいいのだろうか?
その答えを見つけ出せないまま何とか一匹仕留めたグラカスだが、まだルギーレとエリフィルは三匹ずつに襲われている。
(くそっ……!!)
本来であれば誰かの手助けに行きたいが、あいにく三人とも自分のことだけで精一杯の状態である。
そんな中で、ルギーレは自分のレイグラードを振るって何か効果的な技を繰り出せないか考えていた。
(くっそ、何かいい手はねえのかよ!?)
距離を取ってもすぐに追ってくる。
やっぱり二足歩行の人間と四足歩行の動物では何もかもが違うんだなあ、などとのんきなことを考えている余裕なんてない。
そのままだんだんと犬たちに追い詰められていく三人。この犬たち、なんか変だ。
普通の犬じゃなくて、あのベティーナがこうやってけしかけてくるぐらいなのだからやはり生物兵器として生産されたものなのだろうか。
どうにかしなきゃと思っていても、蹴とばそうが剣で追い払おうがまとわりついてくるのでタチが悪いと思っていた矢先、ついにその中の一匹に左足を嚙まれてしまう。
「ぐあっ!?」
思わずガクリと膝をついてしまったルギーレは大きな隙ができる。
そこを見逃さなかった犬たちが次々飛び掛かってくるが、ルギーレも必死にレイグラードを振り回して応戦する。
「くそっ、あっち行けこの野郎!!」
すると、その振り回していたレイグラードが運よく一匹の犬に当たって絶命させる。
これで残りは二匹……そう思った矢先、ルギーレが突然頭痛を覚えた。
「ぐっ……!?」
なんてこった、こんな足の痛みに加えて頭痛だと? 何が起こった?
仲間を殺されたと理解したのかしてないのかわからない犬たちが、再びルギーレに向かってくる。
しかし次の瞬間、ルギーレの脳裏に一つの光景が浮かんできた。
(……!)
ルギーレの身体が無意識のうちに動く。足の痛みも頭の痛みもいつの間にか消えている。
いったい何が起こっているのかルギーレ自身もわからないが、その場で素早く立ち上がって右手に握っているレイグラードを右手一本の逆手で構え、そのまま身体を横に一回転させながら大きな薙ぎ払いを繰り出す。
それと同時にレイグラードの中に魔力を送り込み、衝撃波を円形に放出するイメージを完璧に頭の中で構築した。
そして最後に出てくる、この技の名前。
「……デッドライジングストーム!!」
「ワキャンッ!?」
「ギャウウッ!?」
円形の衝撃波となって生み出された光の嵐は、まとわりついていた二匹の犬を一瞬のうちに殲滅した。
しかもそれだけではない。
衝撃波はグラカスとエリフィルのいる方向にも飛んでいき、彼らと戦っていた犬たちも何匹か倒すことに成功したのである。
「……え?」
「お?」
何が起こったのかわからないまま呆然とするグラカスとエリフィル。
しかし、これで戦況は一気にこっちに傾いたのだと理解すると、即座に残っている犬たちを葬り去るべく動き出した。
「おらおらおらああ!!」
「これで終わりだ!」
優勢になって一気に攻めに回る騎士団長たちを横目で見つつ、ルギーレは足の痛みが復活したことによって後ろの岩壁に背中を預けて座り込んだ。
(何だったんだ、今のは……?)
何かがおかしい。
あんなに鮮明に自分が技を繰り出すイメージなんて今までできたことがなかったし、口走った技の名前だって初めて聞くものであった。
本当に何だったんだろう……と思いながらも、まずはベティーナの手下たちを倒すことに成功してつかの間の休息を取ることにした。




