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294.赤水晶

 その一言を聞いたエリフィルとルギーレは、ハッとした顔つきになってすぐに考え込む。


「確かにそれなら辻褄が合うが……でもまだそうと決まったわけでもあるまいし、そもそもあの水晶のありかは私たち王国騎士団しか知らないだろう?」

「だからだよ、エリフィル。失踪した魔術師の奴らが裏切ってそのニルスとかいう奴についてさ、そのありかを教えたら同じこったろ?」

「あ……」


 確かにそれもそうかと納得するエリフィルの横で、ルギーレはグラカスのことを次のように評価していた。


(言動は荒っぽいし猪突猛進で突っ込んでいくタイプっぽいけど、やっぱり王国騎士団の団長の一人だけあって頭が回る人なんだな)


 エリフィルについては今のところ礼儀正しい性格であること以外に知らないのだが、今はちょっとボケていただけで本来はグラカスと同じく頭が回るタイプなのかもしれない。

 そう思っているルギーレを伴って、二人の王国騎士団長たちはその赤水晶があるという場所へ続く通路へと案内する。


「ここがそうなんだが……ちょっとお前、向こう向いててくんねえか?」

「えっ?」

「この通路を開くためには暗証番号を入力しないと進めないんですよ。ですがこれは王国騎士団の機密事項ですから、いくら元勇者パーティーの方とはいえども解除する番号はお見せできないんです」

「あ、はい……」


 暗証番号というものが何なのかすらわからないルギーレだが、とりあえず見られたくないものがあるらしいのでグラカスに見張られながら別の方に視界を向ける。

 後ろからはピッピッピッと何かを操作するような音が聞こえてきて、十回ほどそれが聞こえたところで今度はカチャリとロックの外れる音が聞こえた。


「よーし、もういいぜ」

「いや……どうやら良くないみたいですよ」

「あ?」


 早く先に進もう、と言おうとしたグラカスよりも早くルギーレは戦闘態勢をとっていた。

 なぜなら明後日の方向を向いていた彼は、二人の視界に入っていない景色の中に自分の敵を見つけたからであった。

 そして、それに気がついたグラカスとエリフィルも先に進むのをやめてロングソードを腰の鞘から抜いた。


「貴様、何者だ?」


 エリフィルの鋭い声が洞窟内に反響する。

 三人の近くに気配すら感じさせずにいきなり現れたその人物は、ルギーレにとっては多分三度目だろうという再会を果たした女だった。

 そして、彼女はポツリとこう呟いたのだ。


「……私に勝てたら教えてあげる」


 その声とともに被っていたフード付きのマントを取り去り、その下から緑色の鎧に包まれた身体をさらけ出す槍使いの女。


「教えてもらう必要なんかありませんよ」

「えっ?」

「だってあいつ、俺の元仲間ですからね。というかグラカスさんもエリフィルさんも会ったことないですか?」

「んー……あ!!」


 先に彼女のことを思い出したのはエリフィルだった。

 勇者パーティーが諸国を回って、シュアにきた時にレフナスに謁見しにきた内の一人……。


「そうだ、確か彼女はベティーナさん……」

「そうですよ。実力はあるけど性格の悪い嫌な女ですよ」

「あー、俺も思い出したわ。何だか気取っててタカビーな女だなーとは思ってたけどよお、まさか俺たちの後をつけてたってのか?」


 グラカスの問いにその女……ベティーナはふんと鼻を鳴らした。


「だったらどうだっていうの? まあ偶然あなたたちを見かけて追いかけてきてみたら、そんな所に赤水晶のロックを外すヒントがあったなんてね」

「どうもこうもあるか! てめぇ、そんななりして自分を倒したらとか何とか言ってっけどよぉ、三人相手に勝てるとでも思ってんのかよ?」


 だったら相当めでてえ頭してやがんだな、と乾いた笑いを漏らすグラカスだが、ベティーナの方は冷静にこう告げた。


「私たち一人で戦うなんて言ってないんだけどね」

「ということは貴様には仲間がいるのか?」

「そうよ。頼れる仲間がね」


 そう言って懐から取り出した黒くて細長い笛を吹き鳴らすベティーナ。

 その音色は普通の笛とちょっと違う、ピリリリリと響くような妙な音に聞こえる気がした三人だったが、その理由はすぐにわかった。

 なぜなら彼女がその笛で呼び寄せたのは……。


「グルルルル……」

「っ!?」

「さぁ、この三人があなたたちのエサになるのよ!!」


 そしてベティーナが三人に向かって指を差しつつ、もう一度その笛を吹き鳴らせば、通常よりも二倍ぐらいの大きさは軽くありそうな黒いドーベルマンが総勢十匹、三人に向かって襲いかかってきた。

 人間よりも遥かに機動力が高い犬を相手にしている間に、ベティーナは悠々とそばを通り抜けて先ほどグラカスとエリフィルが開けたばかりの扉の向こうへと消えていった。

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