292.カマキリの弱点
ティレフはそれに気が付いていないらしく、セフリスがその事実を伝えるためにまず火属性の魔術をカマキリにぶっ放して怯ませたところで、素早く彼に近づいた。
「ちょっと待て、私……もしかしたらあのカマキリの倒し方がわかったかもしれない」
「え?」
「あのカマキリの下腹部に魔晶石がついているのが見えた! 恐らくあれが動力源だろう」
実際、魔晶石のエネルギーを使って稼働する近代的な設備や施設はシュア王国の中では常識となっているので、あれを壊しさえすれば何とかなるだろうと考える。
だが作戦会議をしている暇を、そのカマキリは素早い攻撃で与えてくれそうになかったので、ここはお互いがそれぞれ培った経験をもとに臨機応変に対応する形で再び応戦する。
(あれさえ破壊してしまえば何とかなりそうだが、問題はこのカマキリの素早い動きなんだ……)
セフリスも騎士団に所属して魔術以外にも体術や武器術を一通り習っているとはいえ、やはり一般的な魔術師の例に漏れず体力はないし運動能力も低い部類に入る。
ならばやはり自分はティレフの援護をするしかないと考えるが、どうにかしてカマキリの動きを鈍らせでもしない限りティレフがあの魔晶石を破壊するチャンスは生まれないだろう。
(考えろ、考えるんだ。相手はただのカマキリじゃなくて、改造されて生み出された生物兵器。その生物兵器の弱点は……)
カマキリの攻撃を食らわない範囲に退避するのを忘れないようにしながら、ティレフがカマキリに対して必死に応戦して少しでも傷を入れようと躍起になっているのを見るセフリス。
あの素早くて図体も大きな相手に対して、臆することなく槍を振るっていけるのはやはり戦場で槍使いとして名を馳せた騎士団長だからであろう。
(あのファルス帝国の、傷だらけの鎧に身を包んだシャラード警備隊長を相手に互角以上に渡り合ったという伝説は本当だったらしいが……ん?)
傷?
傷といえば、さっきからちらほらと見えているカマキリの傷。ティレフが槍の攻撃を当てることに成功して穴が開き、そこから中の様子が見える。
やはり改造された生物兵器の例にもれず、中身は機械となっているみたいだ。
それを何とか確認したセフリスは、ここで自分の迂闊さにも同時に気が付いた。
(……そうか、そうだったのか!! ああ、最初からそれをやっておけばここまで苦労することはなかった!!)
だが、気が付いただけでも大きな収穫なのは間違いない。
セフリスは今までカマキリに向かってぶっ放していた火属性の魔術をやめ、もっと効果がありそうな属性の魔術に切り替える。
(カマキリは自然の生物だから火属性や風属性の魔術が有効だと思って連射していたのだが、ティレフの槍がその考えが間違っていたことを示してくれた!)
そこから見えた機械の部分に、セフリスがカマキリの弱点を確信する。
今までの考えを切り替えて繰り出すのは、水属性の魔術……ウォーターボールだった。
それを上手い具合にコントロールして、カマキリが負った傷口にぶつけると……。
「あ……!?」
その様子を見たティレフも、カマキリと一緒に動きを止める。
なぜならその傷口の中身は機械。そこに水を当てれば魔力のエネルギーが暴走して機械がショートしてしまい、動力系統に支障をきたす結果になってしまうからだった。
「今だ、ティレフ!」
「よぉし!」
大きな隙ができたカマキリの下腹部に素早く飛び込んだティレフは、そのまま自慢の槍を全力で魔晶石めがけて突き出した。
自分の背丈ほどもあるその魔晶石を、魔力を込めた突きの一撃で突き割ったのである。
バギィン、と砕け散るその音はセフリスにもハッキリと聞こえたが、まだ戦いは終わっていない。
(これでとどめだ!)
セフリスはティレフが魔晶石のそばから離れて、思わぬ衝撃に備えるために大きく距離を取ったティレフを見て、彼の槍に負けず劣らずの威力を持つ水属性の魔術……ウォーターランスを発動する。
一直線に槍となって飛んでいくその水は、一点集中型の典型的な魔術だ。
本来であればよほど狙いが定まっていない限り、その一直線の軌道しかできないゆえにコントロールも利かず、攻撃範囲もかなり狭いので使えるシチュエーションが限定されてしまう。
だが今は、まずカマキリの下腹部にある魔晶石をティレフがまず壊し、ポッカリと開いたその穴めがけて繰り出すのでこれで十分だとセフリスが確信した結果だった。
その魔晶石があった穴に突き刺さった水の槍は、カマキリを構築していた内部の機械を全てショートさせ、最終的に大爆発させてカマキリのその全身を飛散させる結果に終わったのだった。




