28.ヴィーンラディの預言者と霧の島
だが、そのヴィーンラディの預言者がもしかすると彼女ではないかと思っている二人。
いや、きっとそうに違いない。
ただ、そこで気になるのはヴィーンラディの国王からも信頼されているほどの彼女がどうしてこの国にいて、さらになぜあの男と行動をともにし、こんな事件に巻き込まれているのだろうか?
たとえ彼女が預言者であってもそうでなかったとしても、ディレーディもザドールもそこが気になって仕方がない。
「まさかあの二人がここに戻ってくるとは思わなかったが、戻ってきたらそこについてしっかりと聞き出さなければならないな」
「そうですね」
だが、ディレーディはこうも思っていた。
この事件はもしかしたら、簡単には終わらないのかもしれない……と。
◇
その頃、合流地点として指定された木製の大きな立て看板を目指して歩いている二人は、これからの予定の立て直しと予知夢の信憑性について話し合いを繰り広げていた。
「さってと、こうなっちまった以上は帝都でいろいろと話さなきゃならねえだろうが……問題はその後また追い出されたらどこに行くかだよなあ」
「ええ。東のアーエリヴァ方面は例の事故で通行止めになっているし、国境もピリピリしているみたいだし。北には海があるから、向かうは西か南しかなさそうね」
しかし、南に向かうのはあの勇者パーティーの後を追いかけることになってしまうので、現状では西に向かうしか選択肢がなかった。
「せめて飛竜があればもっと楽に移動できるんだし、北の海を越えた所で新たに発見されたっていう島にも行けるかもしれないのに……」
「えっ、島?」
おいちょっと待て、そんな島の話なんて初めて聞いたんだがと首を傾げるルギーレに対し、ルディアは一回うなずいてから話を続ける。
「それはそうよ。私があなたと出会った、あの遺跡に向かう前に聞いた最新情報だからね。となるとそのタイミングからして、あなたの所属していた勇者パーティーにも伝わっていないはずだから」
「そっか……そうなると確かにまだ話が広まっていなくても変じゃないな。ところでどこからそんな話を?」
まさか予知夢でそう言われたとか言うんじゃないだろうな、とルギーレが冗談っぽく言うが、ルディアは真剣な表情で首を横に振った。
「ううん、それは違うわ。私がその話を聞いたのは、南のファルス帝国にいる人からなのよ」
「ファルス帝国? 海に近いこのエスヴェテレスの人間からじゃなくて?」
「うん……そこの帝都でお医者さんをやっている人から聞いたの。腹痛で駆け込んだ診療所で、その島のことを知ってるかって聞かれてね」
「医者が……?」
なんだかうさんくさい話である。
普通は新しい島が見つかったとなれば、それなりに大きな情報となって世界中を駆け巡ってもおかしくはないはずだ。
なのに海から離れた場所にあるファルス帝国で、それも皇帝や帝国騎士団から発表があったのではなく、ただの町の医者からそんな話を聞いただけでは、どうにも信用ならない話である。
「嘘くせー。実際にその医者とやらが島を見たっつってんのか?」
「ええ。霧に囲まれてよく見えなかったけど、あれは間違いなく島だったって言ってたわ。多分、飛竜とか使える医者なんじゃないかしら?」
「ますます嘘くせえな。そんな島があるんだったら俺も見てみてえもんだよ」
とりあえず明確に旅の行き先も決まっていないので、最終的にその島でも目指してみるかと当面の目標を変更しつつ、予知夢についてまだ何か話はないのかとルギーレがルディアに聞いてみる。
「話って言われてもねえ……」
「別になんでも良いんだぜ。何歳から予知夢を見るようになったのかとか、ヴィーンラディにいた時の話とかでも」
「……」
その時、ルディアの表情が一瞬曇ったことにルギーレは気がついた。
「……どうした?」
「いえ、別に何も。私が予知夢を初めて見たのは五歳の時だったわね」
しかもその初めての予知夢というのが、仲の良い親戚の男が殺されてしまう夢だった。
当初はそれが予知夢だと分からなかったのだが、数日後に実際に金銭トラブルからその男が殺されてしまったことで、ルディアは薄気味悪さを感じたという。
それから時々見る夢が現実に戻った時に当たることを知って、徐々に「自分には何らかの予知能力があるんじゃないか?」と思い始めたルディアは、生まれ育ったヴィーンラディ王国の騎士団が魔物の大群に襲われて壊滅する夢を見てしまう。
「その時に思ったの。夢は現実に当たることもあるけど、もしかしたらその当たる未来を回避できるんじゃないかってね」
「え……それを騎士団に言ったのか? そしてそれを信じてくれたのか?」
「ううん、最初は全然。さっき通信をつなげたサイヴェル団長と一緒で全然信じてくれなかったわ」
そしてそれが現実になり、騎士団の一個中隊が魔物の手によって壊滅するという被害として広まったと同時にルディアの夢の話も信じ始められていた。
この時の彼女は十五歳だったのだが、彼女を放っておくとまた何を言い出すかわからないので、「保護」という名目で城に軟禁される生活が始まったのである……。




