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1.依頼、そしてあんたは誰なんだ?

「くそ……ざっけんな、この人でなしヤローどもがっ!!」


 こうして情けという名のパーティーの保身を最後に、ルギーレはこれからの自分の行くアテを考え始める。

 不幸中の幸いで武器と金を失わなかったのはベルタのおかげでもあるのだが、だからと言って彼女もまたルギーレにとっては恨む対象でもあった。

 だが恨んでばかりいても話が進まないので、まずはギルドに向かってDランクの自分が受けられそうな依頼を探すことにした。


(……今だとこれだけか)


 手元にあるのは一枚の依頼書。

 そこには「ジゾの町の近くの遺跡で素材集め」と書いてあるので、自分には確かにピッタリだと思うルギーレは、さっそくその遺跡へと向かった。

 しかし、そこで思わぬ光景を目にすることとなる。


「ん!?」

「あら? あなたは誰?」

「いや、あんたこそ誰だよ」


 この遺跡に来るのは自分一人だけだという話だったのだが、なぜかその遺跡の出入り口の前に一人の女が立っているではないか。

 明らかに魔術師ですと言えるようなやや暗めの蜂蜜色の長い裾を持つ服を着込み、こうして近くに立つだけでも感じ取ることができる膨大な魔力の量が彼女を魔術師だと認めざるを得ない説得力を持たせていた。

 この魔術師かもしれない金髪の女ももしかしたら、何か用事があってここに来ているのか? と訝しがるルギーレだが、女はそのルギーレの問いにこう答えた。


「私は……魔術師なんだけど、ちょっとこの遺跡の中で起きる出来事を確かめに来たの」

「はぁ?」


 言っている意味がまるでわからない。

 起きる出来事を確かめに来た? 「起きた」出来事を確かめに来たのならわかるが、その言い方だと「未来の」出来事を確かめに来たことになる。

 その言葉の真意を確かめようとルギーレが聞いてみると、女は当たり前のようにこう答えたのだ。


「夢を見たの。この遺跡の中で、光り輝くものが生まれるのをね」

「だからさっきから何を言ってんだよあんたは」

「仕方ないわよ、それが事実なんだし。それよりもあなたは誰なのかしら? まだ私の質問に答えてないわよ?」

「お……俺はギルドからの依頼でこの遺跡に素材を集めに来た傭兵だよ。別にあんたが何者でも構わねーけど、俺の素材集めの邪魔だけはすんなよな」

「別にしないわよ。私も中に入るけど、あなたとは別行動だと思うし」

「あっそ。じゃあ俺は先に行くわ」


 遺跡に行く前に頭の病院にでも行ったほうがいいんじゃねえのか? と心の中で疑問を投げかけるルギーレは不気味なことを言い出すこの女からさっさと離れ、遺跡の中へと足を踏み入れた。

 遺跡の中はヒンヤリとした空気に包まれており、コートを着込んでいても寒さが伝わってくる。

 そんな遺跡の中に足を踏み入れたルギーレは、寒さとは別に感じるもう一つの気配について考えていた。


(なんだ、この……殺気というか、肌にまとわりつく気持ち悪い気配は?)


 落ちこぼれではあるものの、これでも勇者パーティーの一員として今まで世界中のいろいろな場所を回ってきたルギーレにも、まだ経験したことがない妙な気配。

 そもそもこの遺跡はつい一週間ほど前に見つかったばかりであり、調査が全然進められていないのである。

 これが例えば帝都シャフザートの近くであれば、あっという間に調査部隊がやってきて隅々まで調べつくされてしまうのはルギーレにも予想できる。

 しかし、ジゾの町はシャフザートからかなり北のほうに行った辺境の町なので、シャフザートにある魔術研究員やらその研究員たちの守りを固めるために必要な騎士団員やらを派遣するとなると、なかなかの時間がかかるのである。


(俺だって、ここまで来るのに列車使っても一日半かかったんだぜ……)


 なけなしの金をはたいてまでここまで依頼をこなしにやってきたのだし、これで何もなしでギルドに報告なんてしたら、それこそ自分の生活が成り立たなくなってしまう。

 まさに苦労だけ買ってしまう結果に終わるわけにはいかない、とルギーレはその不穏な気配を首を振って打ち消しつつ、さらに遺跡の先へと進んでいく。

 すると、そこそこ入り組んでいるこのフロアの最深部の壁に不思議な文様が描かれているのを見つけた。


(あれ? こりゃなんだ?)


 文様からするとおそらく魔術を発動するための陣にも思えるが、あいにく魔術に疎いルギーレは簡単な治癒魔術や防御魔術しか使えないので、特に意味もないのだろうと考える。

 だが、そのルギーレが踵を返して本来の目的である素材集めに向かおうとしたとき、いつの間にか目の前に人影があった。


「うおっとびっくりしたぁ!?」

「ふうん、この下から恐ろしいぐらいの魔力を感じるわ」

「お、おいっ、あんたいつからそこにいたんだよ!?」


 出入り口で出会った謎の女の姿が、気配も感じさせずに自分のすぐ近くにあったので驚くのも無理はないルギーレ。

 一方の女はそんなルギーレのリアクションに動じることもなく、淡々とした口調で答える。


「つい今よ。魔力を強く感じるほうに向かって歩いてきたらここにたどり着いたの」

「そういえばあんたは魔術師だって言ってたな。じゃあこの文様も何かを意味してるとかってわかるのか?」


 突き当たりの壁に描かれているその大きな文様を見上げ、女はうーんと考えた後、何かに気づいて「あ」と声を上げた。

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