290.銃
『ぐわあっ!!』
「ちょっ……おい!?」
右の肩に激痛が走り、思わず右手からナイフが落ちてしまったグラルバルト。
一体何が起こったのか?
そもそも魔術防壁を張っていたはずなのに、なぜ自分の身体に痛みが走るのだ?
いろいろと混乱する思想が一気に頭の中を駆け巡り、事態がまるで呑み込めないままとりあえず自分の右肩に回復魔術をかけるグラルバルトだったが、更にもう一度パァンと乾いた音が響き渡った。
『がはっ!?』
すると今度は左の膝に激痛が走る。
先ほどと同じく音が聞こえてからワンテンポ遅れてやってきたその痛みに、グラルバルトはガクリと片膝をついてしまった。
そして先に状況を呑み込めたのは、その傍らで音を出している人物の姿を視界に捉えてエネルギーボールを生み出したアーロスだった。
「くそっ、これでもくらえ!!」
アーロスの手から離れたエネルギーボールは、そのまま一直線に謎の人物の方へと的確なコントロールによって向かっていく。
しかし、そのエネルギーボールが謎の人物に命中することはなかった。
「……は?」
再びパァンと乾いた音が地価の中に響き渡ったかと思うと、エネルギーボールが空中で文字通り飛散してしまったのだ。
魔力を込めに込めたのでそれが当たれば間違いなく倒せるはずだった。
なのにどうだ、結果だけ見ればそのエネルギーボールが空中で消えてしまった。なぜそんなことができる? そもそも何が起こった?
アーロスも困惑してどうにもならなくなったところに、今度は連続して乾いた音が響き渡った。
「ぐふっ、がっ、ぐあああっ!?」
『なっ……』
まるで風に揺れるカーテンのごとく、アーロスの身体が回転して不可解な動きを見せた後にそのままどうっと地面へと倒れこむ。
すぐに助けに行こうとするグラルバルトだが、また乾いた音が響き渡ると、次はわき腹に激痛が走って阻止されてしまった。
更に次は背中に、その次は左肩に。
アーロスもアーロスで続けて聞こえてきた乾いた音の後に、右の太ももに激痛が走って血が流れ出す。
そして二人が地面に倒れて動かなくなったのを見て、手で持ち運びできるほどの大きさの金属の塊に細長い筒がついているものを持った、フード付きのマントで顔と身体を覆っている人間は無言のまま踵を返し、地下から出て行ってしまった。
『ぐ……』
残された二人のうち、すでにアーロスには意識がない。
グラルバルトは謎の攻撃が収まって、それを繰り出してきた人物もここからいなくなったと確認して、まずは全力で自分の身体に回復魔術をかけ続ける。
魔術防壁は効果がなかったみたいだが、回復魔術は効果がきちんと出ているので、最初にやられた肩の傷を含めた全ての傷を治療する。
【今のは何だ? 何が起こった……? そもそもさっきの奴は何だったんだ……!?】
まだ全ての状況が呑み込めていないながらも、傷の治療はしっかりと行なって回復したグラルバルト。確かに物凄い痛かったが、この程度の攻撃で自分を殺せるとは思わないでほしいと心の中で呟きながら、アーロスの治療に向かう。
【くそっ、意識がない!】
とにかく出血がひどいので、まずは傷口を塞ぐことから全て始めなければならないのだが、その傷口を見たグラルバルトは驚愕に目を見開いた。
『何だこれ、何か入ってる……あれ!?』
回復魔術を施しながら、その傷口の中に指を入れてみる。
するとその衝撃でアーロスの意識が戻った。
「ぐあああっ!?」
『あ……すまん、痛かったか!? だが少しだけ我慢してくれ』
「いつつ……あっ、ちょ……うぐああああっ!!」
その傷口の中から指で取り出すことに成功したもの。
それはなんと、鉛でできた小さな弾丸だったのだ。
この事実を知ったグラルバルトは、他の傷口からも同じように弾丸を取り出しながら治療していかないと感じる。
また、自分は回復魔術をかけて傷口を塞いでしまったので、中に残っている鉛球を取り出さなければならないと決意した。
そして先ほどの黒いマントの人物が持っていたあれこそ……。
『あれがまさか、銃……』
「じゅ、う……!?」
『どうもそうらしい。くそっ、まさかもうすでに実用化されていたとはな!!』
アーロスは出血と痛みでまた意識を失いそうになるが、グラルバルトのその呟きだけはしっかり聞き取っていた。
ひとまず全ての治療が終わらないことにはここを動くこともできないので、苦痛を伴う治療になることをアーロスに詫びながら、グラルバルトはまた次の傷口から弾丸を取り出す作業を続けるのであった。




