289.人間製造設備
だが、その行く手を阻むのはその装置から生み出される多数の人間たち。
意思というものはないようで、ただ単に自分の敵を倒すためだけに行動するように生み出されているだけらしい。
だったらこちらも容赦はしなくていいだろうと判断した二人は、その装置ごと全てを破壊し尽くすことに決めた。
どうせここにあるものは全てなくても困らない……いや、あってはいけないものだからこそ、気兼ねなく破壊することができる。
『では、まず私の魔術をお見せしよう』
「できるのか?」
『見ていればわかる』
まずは魔力の量を上手く調整して、グラルバルトが自分で苦手だと言っていた魔術を繰り出す。
苦手とは言っても伝説のドラゴンであるがゆえに、彼が巻き起こす砂嵐でまずは向かってくる敵の視界を塞ぐ。
敵に意思がないとは言っても視界はあるので、砂が目に入ってしまい足を止めざるを得ない敵たち。
アーロスには事前に目を覆うように耳打ちしていたため、彼がダメージを受けることはなかった。
そうして隙だらけの敵たちを目掛けて、砂嵐が十秒ほど起こっていた時にも続けていた詠唱を完成させたアーロスの魔術が炸裂する。
「我の敵全てを焼き尽くして無に返せ、ファイヤーサイクロン!!」
やや風属性の魔力も込められているものの、これはれっきとした火属性の魔術である。
巨大な炎の竜巻がうなりを上げて、わんさか向かってくる敵たちを巻き込みながら燃やしていく。
製造された人間たちは断末魔の叫びを上げることもなく、ただ単に消し炭になっていくだけであった。
その竜巻であらかたの敵を倒したわけだが、製造兵器を壊さない限り製造人間たちは永遠に生み出されることとなってしまい、いつまで経っても決着がつかない。
「ますは元を絶たなきゃいけないだろ! ってことであんた、壊すのは俺に任せろ!!」
『わかった』
意図を汲み取ったグラルバルトはさすがに数が多すぎるので、ここで懐に隠しておいた二本のナイフを取り出した。
そして自分にこれを使わせるということは、すなわち死んでも文句は言わせないぞというグラルバルトの意思表示でもある。
装置を壊しに向かったアーロスの援護に回るべく、グラルバルトは向かってくる人間たちを片っ端からそのナイフで斬り裂いていく。
武術道場経営者は素手の体術だけではなく、武器術もいろいろなことを教えている。それもこれも全ては場所を変え国を変え、そして教え子たちを変えて何十年も何百年も続けてきた事業であるがゆえに、もはや手慣れたものである。
もちろん教えられるだけのレベルに達していなければならないので、一般的なロングソードから始まって今こうして使っているナイフや槍、弓なども使いこなすことができるグラルバルトだが、最近気になっているのは奇妙な形の金属の塊につけられた筒の先端から、鉛の弾を発射してダメージを与える「銃」と呼ばれるものの存在であった。
【あれはさすがに私でも使ったことがない……だが、確か緑のドラゴンが持っていたはずだったな】
発端は人間が開発した武器らしいのだが、もしあれが世の中に出回ってしまう時が来たら世界の戦争のやり方が変わってしまうのではないか? と思ってしまうグラルバルト。
いや、間違いなく変わるだろう。
弓よりも小型なうえに、場合によってはコートのポケットにも入ってしまうほどのサイズ。
それから本数を気にしなければならない上に場所も取る矢と違い、鉛の弾丸は一人で百個も千個も持ち運ぶことだって可能だろう。
サイズもその銃に合わせて小さいので持ち運びも容易。
筒を取り付けてある金属製のパーツの中で火薬を爆発させて弾丸を発射するシステムになっており、それが普及すれば一般人でも楽にいろいろな犯罪ができてしまうだろう。
【混沌の時代が来るかもしれんな……】
そう考えながらふと周囲を見渡せば、いつの間にか自分の周りにはナイフで仕留めた多数の人間たちがうめき声をあげて転がっている光景があった。
そして装置の方に目を向けてみれば、そこにはアーロスが特大の魔術の詠唱を終えて今まさにその装置を破壊するべく手をかざしていた。
だったらもう、後はアーロスに任せればいいだろうと考えていたグラルバルトだったが、さすがのドラゴンでもその安堵が油断につながってしまったという経験を、この直後にするのである。
『……ん?』
ふと何者かの気配を感じて、地上へとつながる階段の方に目を向ける。
だがその瞬間、一回パァンと乾いた音が響き渡ったかと思うと、ワンテンポ遅れてグラルバルトの身体に激痛が走ったのであった。




