285.腹部の魔晶石
「きゃあああっ!?」
「メリラさん……くっ!!」
「仕方ない!」
今度は足を掴むことができず、彼女がそのまま落ちてしまうのを見た二人も一度飛び降りて、メリラを助けに向かった。
だが、性格に問題があるとはいえどこれでも第三騎士団の団長を務めている彼女は、地面を転がりながらも着ている鎧とそこからの姿勢コントロールでなるべくダメージを最小限に抑えることに成功した。
「はぁ、はぁ……」
「ご無事ですか、団長!?」
「私なら問題ない。それよりもあいつを止めるぞ!!」
「はい!」
問題がないとわかった二人だが、今度はそこにムカデもどきが突っ込んできた。
ルディアはロクウィンに抱えられる形で、横っ飛びをしてなんとかその突進を回避したのだが、ムカデもどきは方向転換をして再び二人に狙いを定める。
今度はやみくもに動き回っているわけではなく、しっかりと意思を持って突っ込んで来ているらしい。
その理由は、先ほど射撃兵器を潰すことに成功したメリラがムカデもどきの顔から出る別のものに気がついたからだった。
「二人とも気をつけて! そのムカデの頭から出ている赤い光が、どうやら獲物を狙うための装置になっているらしい!!」
「ええっ!?」
驚きを隠せないルディアの腹部に、ピカッとその赤い光が当てられる。
その光に沿って、ムカデもどきが進路を変えて襲いかかってきた。
あれがどうやら目の代わりらしいのだが、それを壊すために今度はロクウィンが動き出した。
「……よし、ならば私がやろう」
「え?」
ムカデの突進攻撃を目の前にして、槍に魔力を込めて迎え撃つ気満々のロクウィンだが、それを見たルディアは必死で止める。
「だ、ダメですよ!! 死んじゃいますよ!!」
「そんなの、やってみなければわからんだろう。君は下がっていろ」
「きゃっ!!」
ルディアを突進から守るために突き飛ばし、魔力付きの槍を片手に身構えるロクウィン。
お互いに一つしかないその目が、敵を捉えて攻撃のターゲットにする。
その全力で向かってくるムカデもどきに対して、ロクウィンは槍を振りかぶって一直線に投擲した。
「はあっ!!」
叫び声とともに投げられたその槍は、狂いなくムカデもどきの頭部についている赤い光を出している部分に命中した。
もちろんロクウィンは槍を投げた直後に横っ飛びで突進を回避することも忘れずに、自分の攻撃が成功したことに安堵の息を吐いた。
「はぁ、何とかやったか……」
一方のムカデもどきは肝心の視界を奪われて、更に攻撃手段の一つであった射撃兵器もメリラによって二つとも壊されてしまい、目標を捉えられないまま暴走し始める。
先ほどよりも大きく縦横無尽に動き回って大暴れした結果、傾斜のある岩壁に乗り上げて轟音を立てながら無様に横転してしまったのである。
「あ……起き上がれない」
そう呟くルディアの視線の先では、それこそひっくり返った亀と全く一緒の状態で足を必死で動かしながら起きあがろうとしているムカデもどきの姿があった。
だが、足が地面に届かない以上もうバタバタともがくしかない。
そしてそのあらわになった腹部の中心には、ロクウィンが見たと言っていた赤い何かの正体……どう見てもエネルギー源と思わしき大きな魔晶石が埋め込まれていた。
それを見たルディアは、今までの恨みを込めてエネルギーボールを生み出し、一気にムカデもどきに駆け寄って行く。
「これで……終わりよぉっ!!」
精一杯の跳躍から、斜め上から叩きつける形で特大のエネルギーボールをその赤い魔晶石に向かって撃ち出したルディアの一撃により、ムカデもどきを動かしていたエネルギーの源は小さな爆発とともに砕け散ってしまった。
それと同時に、プシューと黒煙を吹き出したムカデもどきから火の手が上がったので、素早く後退して燃え盛るのを見つめる三人。
「終わりましたね……」
「そうだな。でもどうして、この倒れているコートの連中はこんなものをここに運んできたのかな?」
「さあ、それはわからないが……少なくとも何かの目的があってここまでこれを運んできたのには間違いないだろう」
ルディアもロクウィンも、そしてメリラもこのムカデもどきがここに運ばれてきた理由は全くわからずじまいであった。
しかし、誰が創り出したのかは既に見当がついているルディアが騎士団の二人に説明をする。
その様子が、岩壁の一角に埋め込まれている多数の監視装置でその制作者の元に映像となって送られていることも知らないままに……。




