284.やれるだけやってやる
慎重に、慎重に。それはもうとにかく、向こうに気づかれないように進む。
騎士団の二人だって気配を消すための歩き方や心構えは今までの任務や訓練の中で学んできてはいるものの、ここまで慎重な動きを要求されるのは初めてだった。
しかし、音を立ててしまえばその時点で一巻の終わりである。
(敵地に潜入するためにこうやってゆっくり進むことはあったけど、もしかしたら騎士になってから初めてじゃないかしら……)
第三騎士団というエリート中のエリートが集い、国王のそば近く仕えているだけあって技術もプライドもその高さはシュア王国騎士団ナンバーワンと言われている集団の団長を務めるメリラも、ここまでコソコソしなければならないのでフラストレーションが溜まって仕方がなかった。
新団長として抜擢され、魔術剣士として活躍し、バスタードソードを振り回すパワータイプの騎士のメリラは、魔術に関してもアーロスやセフリスからもお墨付きを貰う程の威力と詠唱スピードを誇る。
が、それ故に自分の能力を過信しがちである。
更に第三騎士団は近衛騎士団として憧れの的でもあるが、メリラはそれを鼻にかけて他の騎士団を馬鹿にしている。
そんな彼女でさえも、ムカデもどきに何をビビっているのかと自分でも思ってしまうが、相手は生物ではなく兵器であるのだと思い直してようやく後ろに回り込んだ。
そして、小声で二人に向かって指示を出す。
「ここまで来たわ。見える範囲では特に弱点みたいなのは見当たらないけど、とにかく向こうが動き出す前に攻撃を当て続けるしかないわね」
「そうですね。では……行きましょう!」
「はい!」
三人は顔を見合わせて頷きあい、それぞれ武器を構えて魔術防壁を張ってから突撃を開始する。
当然地面を蹴るその三人の足音にムカデもどきが反応し、身を起こして動き始める。
まずは先頭を進むメリラのバスタードソードが大きく振り上げられ、ムカデもどきの背中に叩きつけられた……が。
「うぐっ!?」
ガァン、と音がして弾き返される。
それどころか衝撃がダメージとなって自分に跳ね返ってきた。
やはり金属で出来ている物体に、金属を叩きつけても意味がなかったようである。
ならばとルディアが火属性の魔力を込めたエネルギーボールを撃ち出したが、その直撃を受けたムカデもどきは少しだけ片足全てを浮かせる形でよろけるのみだった。
「ダメ! 魔術も効かない……!!」
「来るぞ!!」
「飛び乗るのよ!!」
縦横無尽に動き回って反撃を開始するムカデもどき。
メリラはとっさに、その大きくて長い胴体の上に飛びついてしがみつく。
ルディアとロクウィンもそれに続き、弾丸を浴びないようにする絶対的な安全地帯で耐える。
だがその飛び乗る寸前、ロクウィンがまたこのムカデもどきの胴体を見てあることに気がついていた。
「団長!」
「な、何!?」
「このムカデの腹なんですけど、先ほどよろけた時に何か赤いものが見えました!!」
「赤いもの……?」
金属で覆われているこのムカデもどきの胴体全体だが、そういえば地面と接する腹の部分は今まで誰も見たことがなかった。
もしかしたら、これをひっくり返してみたら何かわかるかもしれない。
だがどうやってひっくり返す?
最初にその疑問の答えを出したのはルディアだった。
「じゃ、じゃあまずこのムカデの前の部分についている弾丸を発射する装置を壊しましょう!!」
「そうだな!!」
頭の部分の両側に一つずつ、合計二つの金属製の兵器がついているので、まずそれを壊してしまえば少なくとも弾丸でやられる危険はなくなる。
ムカデもどきといってもかなり大きくて長いので、三人の中で先頭にいるメリラがズリズリと背中の部分を這いつくばる形で前に進んでいく。
このムカデの挙動はさっぱり読めないので、なるべく早く前に進みたいのだが場所が場所だけに揺れて仕方がない状態で……。
「うわっ!?」
「団長!」
急なターンで危うく振り落とされそうになったメリラの両足を、ルディアとロクウィンがそれぞれ掴んで阻止する。
「す、すまない……助かった」
「後もうちょっとですよ!」
二人に助けられたメリラは全身に力を入れて前進していく。
そしてようやく、今までさんざんやってくれた兵器のそばへとたどり着いた彼女は、右手でバスタードソードを振り上げた。
「馬鹿にしないでよね!!」
その絶叫とともに片手で振り下ろされたバスタードソードは、まず右の兵器に叩きつけられる。
自分の右腕に一時的に魔力を込め、筋力をアップさせた彼女の一撃はムカデもどきの頭から前に向かって突き出ているダークグレーの射撃兵器を一刀両断した。
続けてもう一方の兵器は利き手と場所の関係もあり、横から思いっきり突き刺す形になったもののなんとか破壊に成功した。
しかしその直後、ムカデもどきがまたもや急なターンをしてしまい、片手で身体を支える形になっていたメリラは今度こそ振り落とされてしまった。




