282.ムカデもどき
小さいながらも洞窟であることに変わりはないので、ロクウィンの言う通り中に多数の人間がいてもおかしくない。
ルディアもメリラもその考えに同意した結果、脇道の先に現れた洞窟の中で三人は大立ち回りを繰り広げることとなった。
だが、その中心にあったのは思わぬ物体だった。
「な、何だあれは!? なあ、ルディアは見たことはないのか!?」
「私も見たことないです、あんなの!!」
「くっ、これじゃあ近づけないじゃない!!」
生物ではない、金属製の大きな六足歩行の兵器が三人を待ち受けていた。
真上から見ると細長いそのシルエットに、ルディアたちはあの痕跡がこれを移動させた時についたものだと一目でわかった。
だが、今はそれよりもそのシルエットの兵器を倒さなければ自分たちがやられてしまう。
……それはわかっているのだが、近づけない理由が三人にはハッキリあったのだ。
「ムカデに魔力の弾丸を発射する兵器を取り付けたみたい!!」
「足はそこまで多くないけど、あれじゃあ下手に動けばこっちが撃たれたり潰されるぞ!!」
赤と緑の目に悪そうな色合いをしている、やや弓なりに反っている細長い胴体。
そこから左右に三本ずつ伸びている足は金属製であり、移動するたびにガシンガシンと重そうな音を立てている。
では動きは鈍いのかと思いきや、足を素早く動かしてわりかし俊敏な動きを見せてくれるのが更に厄介である。
身体も金属製で出来ている上に、下に潜り込めるスペースがない以上は潜り込んで一気に叩き切るのも無理な話だった。
本当にムカデのようにすばしっこくシャカシャカと動き回るが、壁にぶつからないように制御されているのか、縦横無尽に動き回っても壁に向かおうとするとピタッと止まってしまう。
「今だっ……うわ!?」
ならばそこで一気に接近しようと動き出したメリラだったが、敵はそのムカデもどきだけではなく、それをここまで運んできたと思わしきカラフルなコートの集団も一緒なので、そちらの相手もしなければならないのである。
じゃあその邪魔なコートの人間たちから先に潰してしまおうとすれば、方向転換を終えたムカデもどきとバトンタッチして攻撃を再開してくる。
何だか上手く連携が取れているようで、洞窟の中にただ一つあるこのホールで三人は劣勢に追い込まれていた。
(楽勝なんてもんじゃないわ。これじゃあ敗色濃厚よ!!)
魔術に長けている人間ばかりが集まっているシュア王国騎士団の団員たちが、まさかこんなに敗北寸前まで追い込まれるとは。
これは下手なプライドにこだわらず、大勢で一気に攻められるように軍を動かすべきだっただろうか?
いや、それだとあのムカデもどきに体当たりされたり銃撃されたりで多くの犠牲者が出てしまう可能性もあった。
だからといって、魔術で対抗しようにもルディアがあのムカデもどきに魔術をぶつけてみたところで、特にダメージを与えられた様子は見られない。
恐らく魔術の効果を無効にする文様が掘り込まれているのだろうと見当づけつつも、このままここで逃げ回っていてもジリ貧である。
こうなったら一度引き返して再度乗り込もうかと考えていた矢先、ロクウィンが敵の動きを見てあることに気がついた。
(……ん? コートの連中がムカデの背後に回っている?)
銃撃を受けないようにムカデもどきの動きに注意しながら、こちらに隙を与えないようにちまちまとコートの人間たちが攻撃してくるのを、ロクウィンは自慢の槍捌きで退けていた。
だが、その連中はバトンタッチしたムカデもどきの背後に回る動きをしていることに気がついた。
それもかなりゆっくりとしている動きだ。
ロクウィンはどこからも当たらない、死角となっている岩壁の影に隠れながらもっと敵の動きに何かあのムカデもどきを倒すヒントがないか観察してみる。
(ゆっくり壁に沿って進んでいる? そしてあのムカデの後ろに回り込んでいる。ということは何かしら理由があって、ああいう行動をとっているわけだな?)
そして少しの間、ルギーレとメリラの戦いを観察していたロクウィンはハッとその理由に気がついた。
(私の予想が当たっているとすれば、あのムカデに勝つ方法はあれしかない!)
ロクウィンはその予想が当たっていることを願って、深呼吸をしながらムカデもどきの様子をうかがう。
縦横無尽に駆け回っているように見えて、実はきちんとその行動には理由がある。
敵のコート集団の動き、ムカデもどきの狙う対象、そしてこちらの攻撃の仕方を全て頭の中で分析して、ロクウィンはルディアとメリラに向かって叫んだ。
「攻撃を止めてその場で止まってください!!」




