27.つながった先
同日、同時刻の帝都シャフザートにあるリーレディナ城。
ここで働いている人間の多くは、城の中で過ごすことが多い故に城の敷地内に住み込んでいる者がほとんどだ。
今こうして執務室で魔術通信による連絡を受けた、騎士団長のザドールも城の中に割り当てられた自分の部屋に住み込んでいる。
ただ、こうして騎士団長に直に連絡が来ることはその立場上かなり珍しいので、一体何ごとかと首をかしげながらその通信を受ける。
「ザドールだが」
『あっ、出た……すみません、サイヴェル騎士団長ですか?』
「ああ、そうだが君は誰だ? 名を名乗れ」
『ルディアです。あの、数日前にそちらでルギーレと一緒に聖剣についてお話ししました』
「ああ、君か。どうしたんだ?」
『実はですね……』
ルディアは列車が爆破されたこと、黒ずくめの男たちのこと、そして予知夢のことをザドールに話した。
「ああ、その件ならこちらでも把握している。しかしその予知夢のことに関しては、こちらでは断定ができない以上どうすることもできない」
『そんな!』
「夢の話をされてもどうにもできないだろう。それが絶対に当たる保証も無いのだからな」
しかし、石の向こうのルディアは諦めきれないようである。
『それはわかりますが、あんなにハッキリとした夢を見たのは久しぶりなんです。ですからせめて、ディレーディ陛下の警護を増やしてはもらえませんか?』
「……まあ、それぐらいならいいだろう」
そして、ルギーレとルディアによる列車襲撃爆破事件の詳細な報告のために移動手段と人員をシャフザートから送ることを約束し、ザドールは通信を終了させた。
だが、夢の話をされてもおいそれと警備体制を強化するわけにもいかないので、まずは皇帝の執務室に向かいその部屋の主に話を通しておく。
「……という連絡がありまして、シュヴィスとブラヴァールをディセーンの町に向かわせます」
「そうか。それならこちらもその二人を出迎える準備をしておこう。しかしその黒ずくめの集団はいったい何なのだ?」
「それも含めて説明があるらしいのですが、断片的に聞いた話によりますと、どうやら世界征服を企んでいる集団のようです」
「世界征服ねえ……」
それだったらまず、この国に目を付けたのは正解だったのかもなとディレーディは推測する。
なんせ、このエスヴェテレス帝国はヘルヴァナール世界を統治している主要九か国の中で、最も規模が小さい国だからだ。
とは言ってもほかにもさまざまな小国が各地に存在しており、それらの国々と比べれば大きな国であるのに変わりはない。
「隣の国といえば東のアーエリヴァ、それから西のヴィルトディンに南のファルスだが、連中がそれらを狙っているとかいう情報は入ってきているのか?」
「いいえ、そこはまだ詳細な報告は受けておりません」
「そうか。だが、列車を爆破するとなるとそれなりの装備や戦闘力を持っているみたいだな。油断はできそうにないだろう……が」
それよりも気になるのは、ルディアの言っていた夢の話だとディレーディは続ける。
「我が炎に包まれる……か」
「はっ、ルディアは確かにそう言っていましたが、あくまでも夢の話です。お気になさらずに」
文字通りの夢物語を真面目に受け止める必要はない、とザドールはディレーディに告げるものの、当のディレーディは腕を組んで考え込む。
その様子に首をかしげるのはザドールの方だった。
「……陛下?」
「いや……世界征服を企むつもりなら、いずれその黒ずくめの集団が我に関わってくる可能性もあるかもな」
「お待ちください。先ほども申し上げましたが、一人の人間が見たという夢の話ですよ。それをまさか信じるとおっしゃるのですか?」
「確かにただの夢の話なら我も信じない。……信じないが、ザドールはこんな話を聞いたことはあるか? ヴィーンラディの預言者の話を」
「え?」
「もしかしたら君も知っているかもしれないが、彼女が……ルディアがそのヴィーンラディの預言者だという可能性が高い」
ヴィーンラディの国王にも認められるほどのかなり有名な魔術師として、その名前が国外にもちらほらと知れ渡っているのがルディア・ロンバルトというあの女。
しかし、そのヴィーンラディにはもう一つ気になる話がある。
「ヴィーンラディの預言者というと、確か夢で見たことが現実になる可能性が非常に高いことから名づけられたあだ名を持つ魔術師の話ですよね?」
「そうだ。だが、その正体は謎に包まれている。男か女かもわからない人間が、それこそヴィーンラディの国王を通じて広めた預言はそのほとんどが的中するから事前の準備をしていて助かったというエピソードがいくつもあるからな」
だがその予言が外れることもあるがゆえに、一部ではヴィーンラディの預言者なんて嘘っぱちだろうという連中が、その正体を暴こうとやっきになっているらしい。
そのような連中から身を守るために、預言者のプロフィールは一切謎に包まれて機密事項とされているのだ。




